山の中で作る塩
太平洋から車で約40分。四万十川が流れる山間で、塩づくりがおこなわれている。山で塩づくり…。なぜ海ではなく山なのか?
塩づくりをしている「塩の邑(むら)工房」の森澤宏夫さんによれば、海でつくるのも山でつくるのも基本的には変わらないらしい。それでもなぜ山でつくるのかといえば、海と山では日照時間や湿気、風の強さもまったく違うため、ゆっくりと塩づくりができるから。
海と比べて日照時間の短い山での塩づくりは、こまめにかん水を足したり、攪拌(かくはん)を繰り返すことで、ミネラル分がより複雑に塩の中に取り込まれる。
ミネラルたっぷりの塩は、味に深みが出てまろやかだ。
森澤さんは「海と山は川で繋がっている」と言う。確かに、山では清浄な水が育まれ、川に流れ込んで、最終的には海に到達する。山が荒れると海も荒れ、反対に山が豊かだと海も豊かになるのだという。こうした思いから、最初は海沿いでの製塩を考えていた森澤さんは、山に小屋を建てた。過疎が進む山間地帯の活性化にもなれば…との願いも込められている。
海と山の良さを引き出す
森澤さんが塩をつくるのにかける時間は、冬場で2~3ヶ月、夏場で3~4週間。
50kgの塩をつくるのに、2トントラック1杯分の海水を海から運び、「採灌(さいかん)ハウス」で海水の水分を蒸発させる。海水の5倍くらいの濃度になったら、さらに「天日ハウス」に移して水分を飛ばす。毎日ようすを見て攪拌を繰り返し、約1~3ヶ月たったら脱水機にかけて完成だ。釜で炊くことなく、すべて天日干しでつくっている。
山では、それほど多くの塩はつくれない。だから直接取り引きがほとんどだが、それでも品切れになることがあるそう。看板商品は「土佐の山塩小僧」。旨みのなかに甘みと苦みがほのかに混じった塩は、プロの料理人にもファンが多い。
海と山の両方のよさを手間ひまかけて引き出すのだから、美味しいはずだ。太平洋の豊かさを何よりも感じさせてくれる塩だ。