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100日かけて墨が出来上がる
鈴鹿墨の歴史は、平安時代の初期にまでさかのぼるといわれている。
今回は、現在もその伝統を受け継ぎ、すべて手作業で墨を作っている伝統工芸士・伊藤亀堂さんに会いに行った。
墨を作る作業は、想像以上の重労働だ。まずは、原料となる煤に、鹿や牛の皮や骨などから作るにかわ、そして香料を混ぜ合わせ、全身で練り込んでいく。
伊藤さんが練ったばかりの墨を中田が握ってみた。
「ゼリーみたいな感じ」と中田。
そのゼリーみたいなものを木型にはめて成型し、乾燥後、磨き上げて彩色する。ひとつの墨ができあがるまで約100日もかかるという作業なのだ。
好みに合わせた300種もの墨
面白いことに、墨とひと口に言っても、さまざまな種類がある。中田もそれに驚いて、「いろいろな種類の墨があるんですね」と伊藤さんに問いかけた。伊藤さんの答えでは、「うちでは300種類くらい作ります」とのこと。
それは、やはり好みがあるからだという。締まった黒が好きな人もいれば、にじむ墨が好きな人もいる。そういったことに応えるために、いろいろな種類のものを試作したそうだ。
墨といえば黒、と思い込んでしまいがちだが、そこには300通りもの色がある。
伊藤さんは父を師匠にあおぎ、三代目亀堂の名を継いだが、じつは現在、鈴鹿墨を作れる唯一の職人となってしまった。1000年以上も続く鈴鹿墨の歴史を絶やすまいとして、自らの墨作りとともに現在は後継者の育成にも力を注いでいる。