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良質の土に恵まれた信楽の地
滋賀県の信楽は、良質の陶土がふんだんに採取でき、古くから陶器の里として栄えた地だ。信楽焼の特徴は、作品の色合い。華美な彩色はいっさいなく、無骨なまでに簡素な土色。
そこに高温で焼くことによりできた焦げ目が合わさって、素朴だが温かみのある風合いが生まれる。そんなわびさびの趣が多くの茶人に愛されたのはいうまでもない。
使うことを前提とした器
今回中田が伺ったのは、高橋春斎とならび信楽二大巨匠とも称される「上田直方」の五代目。信楽の地に生まれ、父である四代目に師事し、1976年に五代目を襲名した。その後も精進を続け、現在も信楽にて陶器と向き合う毎日を過ごしている。中田もろくろを回し、器を作らせてもらった。
上田さんは日本工芸会の正会員である。日本工芸会は、日本伝統工芸を受け継ぎつつ、用と美を兼ね備えた作品を目指している。信楽を代表する名工だから、値段はたしかに高い。けれども、「これで酒を飲んだらうまいだろうな」と容易にイメージできるのは、やはり鑑賞としての美だけでなく、使うということを前提においた器だからかもしれない。