NIHONMONO「にほん」の「ほんもの」を巡る旅マガジン

本当に美味しい飛騨牛を見極める・料理人 深尾公則

本当に美味しい飛騨牛を見極める・料理人 深尾公則

牛の味は血統で決まる。その理由は、歴史が物語る。もともと農耕のために飼育されていた和牛は、明治時代に入ると文明開化によって食用としての需要が増加。その結果、和牛も海外の牛のような大きな体格にしようと各地で外国種との交配が盛んに行われた。ところが、牛の気性が荒くなり、肉質が悪化するなど品種改良は失敗。第二次世界大戦終戦後、本来の和牛を取り戻そうとする動きがあったが、雑種が増えすぎたため純血の和牛は絶滅状態に。しかし、奇跡的に兵庫県香美町小代区(かみちょうおじろく)に生息していた4頭の中から生まれた「田尻号(たじりごう)」が種雄牛として活躍し、約1500頭もの子孫を残した。以降、サラブレッドのように血統をデリケートに管理しながら繁殖が進められた結果、日本各地でより肉質の良いブランド牛が生まれ、国内だけでなく世界の食通にも“WAGYU”は愛されるようになった。

日本を代表するブランド牛「飛騨牛」は、岐阜県内で14ヶ月以上肥育された黒毛和種の肉牛かつ肉質等級が3以上であることなどが定義とされ、毎年10,000頭前後が認定を受け、市場に出荷されている。肉質はきめ細かで柔らかく、口の中で芳醇な香りが広がる。また、濃厚なコクがありながらも後味がさっぱりしているのが特徴だ。岐阜県岐阜市、岐阜県各務原市、愛知県名古屋市、東京都中央区銀座などにある飛騨牛専門店『馬喰一代(ばくろいちだい)』を営む深尾公則さんは、先代から精肉業を継ぎ、1969年の創業以来真摯に飛騨牛と向かい合ってきた。ロースやヒレなど特定の部位を仕入れる焼肉店が多い中、深尾さんは自身の知見を広げ、飛騨牛農家を守るため“一頭買い”にこだわる。「経営のことだけ考えたら良く売れる部位だけ買った方が効率は良いと思います。でも、飛騨牛として認められる牛を育てるのは決して簡単ではないし、農家さんの立場を考えたら一頭買いをして、全ての部位の魅力を余すことなくお客さんに伝えていくのが僕たちの役目。それが飛騨牛のブランド価値を高め、地産地消につながる」。一頭買いで牛を仕入れることで、客は希少部位もリーズナブルに楽しめ、農家と店を守ることができる。売り手も買い手も満足し、地域産業にも貢献と「三方よし」を常に目指してきた。

飛騨牛の焼肉を楽しむなら『馬喰一代』と多くの客が足を運ぶのは、深尾さんが当代きっての目利きで、飛騨牛をどのように調理すれば最もそのポテンシャルを引き出せるか熟知しているからだ。適度な厚さと角度でカットされた肉は、同じ等級、同じ部位でも一般的な焼肉店の味とは一線を画す。そもそも、店名の由来となった馬喰(ばくろう)とは、牛や馬の仲介をする商人のこと。深尾さんは、料理人であると同時にバイヤーとして足繫くせりや農場に足を運び、長年数多くの飛騨牛を見極め続けた結果、取引のある飛騨牛農家は200軒を超えた。店舗の入り口には、取引先の農家の名前を刻んだ圧巻の札が並ぶ。「取引いただいている農家さんの数は多いですが、節操なく仕入れている訳では無く、牛の肉質と生産者の人となりを見極めています。そういう意味では、飛騨牛を育てることにプライドを持っている良い人たちと出会えたことで良い牛に巡り合えているのだと思います」と深尾さん。生産農家にとっても深尾さんは一目置く存在となっている。自分たちが大切に育てた牛たちを深尾さんになら安心して託せる。育ての親の気持ちをしっかりと受け止め、その想いを消費者に「美味しさと信頼」という形で伝える深尾さんは生産農家にとっても唯一無二の存在になっているのだろう。そういった思いから、生産者である農家も深尾さんの店を選んで食事をしに足を運ぶのだそうだ。

飛騨牛を生み育む岐阜で創業し約50年、この地で愛され、信頼される事を目標にひたむきに歩んできた。これからの百年も飛騨牛に関わる全ての人々の思いと飛騨牛の看板を背負い歩んでいきたいと話す。まっすぐと見つめたその視線の先には飛騨牛がこれからも日本を代表する愛されるブランド牛であり続ける未来がはっきりと見えた。

ACCESS

飛騨牛一頭家 馬喰一代
岐阜県岐阜市宇佐南3-3-17
TEL 058-260-4129
URL http://www.bakuroichidai.co.jp/