NIHONMONO「にほん」の「ほんもの」を巡る旅マガジン

未来に受け継ぐ新しい名刹「神勝寺」

未来に受け継ぐ新しい名刹「神勝寺」

中国地方で、広島市、岡山市、倉敷市に次ぐ大きな都市で知られる福山市は、戦後の工業化とともに、経済規模が急拡大し、瀬戸内地方の主要都市のひとつになっている。福山駅には一部ののぞみが停車するなど遠方からのアクセスがよいのも魅力のひとつである。地理的には瀬戸内海の真ん中あたりに位置していて、中心地の賑わいもさることながら、海沿いの街並みも美しい。ジブリの名作の一つに出てくる港町は、ここ福山市の鞆の浦(とものうら)がモチーフになったと言われている。

神勝寺のある福山市沼隈町はJR福山駅から車で30分ほどの場所。平家ゆかりの史跡が点在する町としても知られている。神勝寺は、昭和40年に初代町長で常石造船2代目社長だった神原秀夫が開いた禅寺で、常石造船の創業者、神原勝太郎の名前にちなんで命名された。約7万坪の敷地に築370年の古建築や、復元された千利休の茶室、寺務所〈松堂〉などが点在し、建物の間を結ぶように手入れの行き届いた美しい庭園が配置されている。すべてを回りきるには半日必要なほど高大な敷地の中に、歴史、現代美術、食、そして『心身の垢を洗い流す』禅の精神を体験するための日帰り入浴ができる「浴室」まで兼ね備えた新感覚の名所となっている。京都などの名刹とことなり、数百年の歴史を持つわけではないが、その趣、風格は名だたる寺に劣ることはない。『神勝寺 禅と庭のミュージアム』は、建築家の藤森照信やアーティストの名和晃平ら、現代を代表するクリエイターの手によって2016年に造られた。

「広々として気持ちいいですね。毎日散歩したら季節の移り変わりを感じられそうですね」
全国各地の寺をめぐってきた中田英寿もそこに流れる空気を心地よく感じているようだ。広々とした敷地には、植物が生い茂り、せせらぎが流れる。新しい寺でありながら、どこか落ち着いた雰囲気が感じられる。

ゆっくりと坂を登り眺めのいい本堂で参拝したら、坂道を下ってアートパビリオンである『洸庭(こうてい)』へ。芝庭には低木が植えられており、見ごたえのある景色の中には、四季桜と呼ばれる桜が植えられている。この桜は年2回、春と秋に開花する。秋になると、紅葉の中に可憐に咲く桜の花がみられるのも幻想的である。境内でもひときわ異彩を放つ、こけら葺きの舟形の建物は、名和晃平と彼が率いるSANDWICHが手がけたもの。入場は30分間隔で区切られており、暗闇の中の水辺にさざ波が打ち寄せるような演出で、更に心を落ち着けてくれる。和の素材、建築様式と現代アートが融合したような不思議な佇まいだが、境内をゆっくり歩いたあとだと、そこに禅の精神が宿っているようにも思えてくる。

おそらくこの寺は、100年後、200年後、さらにその先もこの地にあり続けるだろう。その時代の人々は、平成の時代に生まれたこの寺をどんなふうに感じるのだろうか。歴史や過去ではなく、未来に目を向けることができる新しい名刹といえるだろう。

ACCESS

神勝寺
広島県福山市沼隈町大字上山南91
TEL 084-988-1111
URL https://szmg.jp/