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中田英寿 福島を旅する<#10> 来ました、福島。

中田英寿 福島を旅する<#10>
来ました、福島。

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安達太良山

近年、肉質の良さから評価を高めている福島牛。安達太良山(あだたらやま)のふもと、大玉村に、その立役者として知られる人がいる。牛の飼育を始めて半世紀。数々の品評会で賞に輝き、県内有数の生産者として知られる鈴木廣直(すずき・ひろなお)さんは、「水と空気と良質な稲わらこそ、おいしい牛が育つ条件」と明かす。

安達太良山の大自然が、上質な福島牛を育む

高村光太郎(たかむら・こうたろう)の「智恵子抄(ちえこしょう)」で「ほんとの空(そら)」とうたわれた安達太良山。なだらかな稜線(りょうせん)が着地した先には、田園地帯が広がっていた。鈴木廣直さんはその田んぼの一角で、夫婦ふたり、畜産を営んでいる。
鈴木さん宅の客間に招かれた中田英寿さんは、壁一面の稲穂の束に目をこらし、尋ねる。
「この稲わらには、何か特別な意味があるのでしょうか?」
それは鈴木さんが20歳で就農してから収穫してきた、50年分の稲穂だという。
「牛の飼育を始めたのもほぼ同時期だから、半世紀も経つんだなぁ」

肉牛を生産する農家には、母牛に子牛を産ませて約9~10カ月まで育てる繁殖農家と、その子牛を約20カ月育てる肥育(ひいく)農家の2種類がある。鈴木さんは後者の肥育農家であり、福島県を代表する生産者として知られている。2017年、全国肉用牛振興基金協会が主催する肉用牛枝肉共励会(にくようぎゅうえだにくきょうれいかい)では、農林水産大臣賞を受賞。また同年行われた第19回全農肉牛枝肉共励会(ぜんのうにくうしえだにくきょうれいかい)では、最高位の名誉賞と、これまで数々の賞にも輝いてきた。
「香りが良く、脂がしつこくないのが福島牛の特長です」
自らの功績については控えめに話す鈴木さんだが、手塩にかけて育てた牛の肉質は、世界に誇れると胸を張る。

「牛は血統で決まるとよく言われますが、福島という産地に共通する特色は、どのようにもたらされているのでしょうか」
中田さんからの質問に、鈴木さんは「飼料ですね」と即答する。
「元々、飼料は各農家それぞれに工夫していたのですが、それゆえに、肉質のばらつきも大きかったんです。そこで皆の意見を聞きながら、飼料を統一。その結果、地域全体の品質向上につながりました」
飼料の中でも重要なのが、稲わらなのだと続ける。
「人間の食事に例えるなら、稲わらはごはんで、配合飼料はおかず。おかずがいかに豪華でも、主食をしっかり取ることが大切なんです。稲わらは品種によって硬さが異なるのですが、牛の反芻(はんすう)には、コシヒカリがもっとも適していると思っています」

近年、福島牛の評価が高まる一方で、震災前には50万円で買えた素牛(もとうし)が、倍近くにまで高騰。高齢化により生産農家の廃業が相次いでいる現状に触れ、危機感を募らせていた鈴木さん。だが、昨年末のTPP(環太平洋経済連携協定)、2月の日欧EPA(経済連携協定)の発効と、貿易の自由化の流れをどう受け止めているかという問いかけに対しては、生産者としてはいい牛をつくり続けるほかないと前を向く。
「外国産の安価な牛肉が入ってくれば、市場の競争はより厳しくなるでしょう。でも消費者のなかには品質の良い肉、おいしい肉を選んでくださる方々も、必ずいると思うんです」
その言葉にうなずきながら、貿易自由化は生産者にとってチャレンジであるだけでなく、チャンスにもなるはずと、中田さんはエールを送る。
「海外に行くと、いろいろな人から和牛について聞かれます。それだけ皆、日本の牛肉に関心があるということ。海外に販路を広げる好機ですし、どんどん外に出て行くべきだと思います」
まだまだ引退できそうにないですね——。そう言って鈴木さんは、晴れやかな笑顔を浮かべた。

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