フルーツトマト並みの高糖度れんこん栽培を実現「金坂蓮魂」金坂哲宏さん/千葉県長南町

2021年、千葉県長南町産のれんこんが国内トップレベルの糖度9度を記録し注目を集めた。生産者は金坂哲宏(あきひろ)さん。引きこもりを経験するも、業界で著名だった父の死をきっかけに就農。肥料や農薬を使わず、土中の微生物の働きを活かした自然栽培を確立し「金坂蓮魂(れんこん)」というブランド名で自身のれんこんを送り出している。

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引きこもりネットゲーマーかられんこん農家へ

房総半島の内陸部に位置する長南町は、山あいの谷筋に谷津田が広がる中山間地域で、生産組合も活動する千葉県におけるれんこんの産地である。そんな長南町でれんこんを栽培をする金坂家は親子二代にわたり、れんこん業界に新風を送り続けている。

れんこんは蓮の地下茎(ちかけい)の肥大化した食用部分で、蓮田(はすだ)と呼ばれる泥沼の水面下で育つ。収穫時はこの泥沼の中に入り、ホースで水圧を加えて泥をはじき飛ばしながられんこんを浮かせて収穫するのだが、水面下の様子は泥で見えないため、手探りでの作業になる。そうした環境のなかで傷つけることなく掘り起こさなければならない。「水圧を当てすぎてしまっても、れんこんにあざができてしまいます」と金坂さんはその作業の難しさを語る。

父は品種名に名を残した篤農家 

金坂さんの父である金坂孝澄(たかすみ)さんは、れんこんの新しい品種を育成した篤農家(とくのうか)として、れんこん業界では有名な人物だ。自身の氏名をもとに名付けた最初の「金澄(かなすみ)1号」は1985年に品種登録。その後、2号3号と改良を重ね、今や金澄系品種は関東地方で生産されるレンコンの約7割を占めるにまで至っている。

耐病性、収量性、収穫のしやすさなどに着目して品種を開発した孝澄さんだが、最も意識したのが「食味」であるという。「父は甘さとシャキシャキ感を求めてましたね。子供の頃から父が作ったれんこんの煮物がよく食事に出てきましたが、 鶏肉が入っていない。れんこんの味や食感をチェックするためなんです」。そんな父のもとで育った金坂さんだが、実は引きこもり生活を経験することになるのだった。

ネットゲームにのめり込んだ引きこもり時代 

もともと家業を継ごうとは考えていなかった金坂さん。専門学校でプログラミングを学び、IT関係の会社に就職する。ところが、職場は同期が何人も辞めるような過酷な労働環境。気を紛らわすためネットゲームにのめり込み、退職を余儀なくされた。金坂さんは当時のことを「一度人生を諦めたネットゲーム時代。メールを見ることや電話に出ることさえも怖くなっていました」と振り返る。

3年近くに及ぶ引きこもり生活に転機が訪れたのは父親の急逝だった。「兄も姉も、誰も父の跡を継いでいなかったこともあって、亡くなってから父のことをとても意識するようになりました。やっぱり父親という存在を小さい頃からなんとなく感じていたんでしょうね」。孝澄さんの葬儀の時、金坂さんは「もしかしたら自分がれんこん農家を継ぐかもしれない」と、兄に話しかけていた。

著名な父の息子としてのプレッシャーを乗り越える 

だが、本当に就農するかどうかは数ヵ月間悩んだという。引きこもり生活が長かっただけに、継続してやり続けられるかどうか自信がなかった。「周りから『金坂さんのところの息子さん、就農したけど辞めちゃったって』と言われるのが怖かった」。父の存在が大きかっただけに、れんこん農家を引き継ぐプレッシャーが重くのしかかった。

ようやく就農を決意するも、1か月仕事して3か月休み、また1か月仕事して半年休むということを繰り返した。「なぜ自分は頑張れないのだろうと泣いたこともありました」。そんな葛藤の日々が続いたなか、「父が生み出した品種を守るという目的だけでは父を超えられず、農作業は辛いだけでした。自分がやってみたいことに打ち込んで、自分らしさを出してこそ父を超えられる」という考えに至る。自分が夢中になって打ち込めること。金坂さんにとってそれは、れんこんの自然栽培に挑むことだった。

自然栽培で国内トップクラスのれんこんに

長南町は山あいの谷津田が点在する地形のため、広大な平地でれんこんを栽培する国内最大の産地、茨城県には作業効率、収穫量の面で太刀打ちができない。市場においても知名度が高い茨城県産のれんこんの方が千葉県産よりも高い価格がつく。そうした現状を踏まえ、この地で生き残る農業を模索していた金坂さん。たどり着いた結論が、自然栽培で高品質のれんこんを作り、付加価値化させることだった。

微生物を意識した自然栽培 

金坂さんが年配のれんこん農家に昔の農作業のやり方について聞き取りを行う中で、ある気づきがあったという。それは、60年ほど前には農薬や化学肥料を使っておらず、山の落ち葉などを堆肥として使っていたということ。そのことが金坂さんに自然栽培へ興味を持たせるきっかけとなった。そこでまず、落ち葉の代わりに地元で生い茂っていた竹をチップ化して蓮田に投入し基礎となる地力を回復させた。

栽培を続けるなかで、国内トップクラスのれんこん生産者が微生物に着目していることを知り、生育環境における微生物の働きが食味や病害虫の耐性などに影響を与えていると考えた金坂さん。土中の微生物のバランスを維持し、その働きを活性化させるため、徐々に無農薬、無肥料による自然栽培に移行する。れんこんは順調に成長し肥大化したものを収穫できるようになった。金坂さんは「微生物の働きについてはまだわかっていないことが多い」と前置きをしつつも「施肥と農薬を前提とした栽培」とは異なる「微生物を主体とした栽培」として、自身の農法を位置付けている。

糖度9度の国内トップクラスのれんこん 

そんな金坂さんの探究した栽培方法は、分析結果としてもその食味の良さが証明された。2021年、金坂さんのれんこんが国内最高レベルの糖度9度を記録。逆に苦味やえぐみのもととされる硝酸イオンの数値は低く抑えられた。一般的なれんこんの糖度が6から7程度とされる中での快挙は注目を浴び、現在ではミシュランで五つ星を獲得したホテルにも食材として採用されている。

一般顧客向け販売にはネットショップを活用する。会社員時代のスキルを活かしラベルデザインなどは自作。「金坂蓮魂」という商品名は引きこもり時代、ネットゲーム仲間に付けてもらったネーミングだ。これまでの葛藤、試行錯誤を乗り越えて作り上げた「魂」の込められたれんこんとして、金坂さんお気に入りのブランド名として採用したものである。

さらに課題に挑み、地域の産業に発展させたい 

れんこんの自然栽培技術で実績を残す金坂さんだが、今まで農薬で駆逐できていたザリガニがれんこんに被害を与えるようになるなど「まだ研究しないといけないことがある」と課題は残されている。それでも今は引きこもり時代と違い、自分がこれから取り組んでみたいことが次々と思い浮かんでくる。「これからは引きこもり経験者としての農業体験の受け入れや農泊などの交流事業の整備を進めてみたい。長期的にはれんこんの加工品開発を経て、地域の産業と雇用を守る地域商社に発展させていきたいですね」。今後のさらなる活躍が楽しみでならない。

ACCESS

金坂蓮魂
千葉県長生郡長南町
TEL 非公開
URL https://www.kanesaka-lotus-root.com
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