農業シェアリングを確立させ、最高品質の鶏を出荷する「小松種鶏場 有明山農場」/長野県安曇野市

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自然エネルギーを活用した農場「小松種鶏場 有明山農場」

長野県中部にある安曇野市、北アルプスの山麓に建つ、約4万5000平方メートルの広大な敷地の養鶏場「小松種鶏場 有明山農場」。1925年創業の老舗養鶏場が2018年、新たな一歩を踏み出した。岡山県倉敷市にあるひだかや株式会社農村エナジー株式会社との提携だ。2012年に発足した両社は、農林水産分野へ太陽光発電などの自然エネルギーを活用した支援やコンサルティングを行う会社。

畜産施設の運営と太陽光発電などの相乗効果向上を目的に、同社が展開する事業である「農業シェアリング」の一環として、小松種鶏場有明山農場の鶏舎を一新。再生可能エネルギーの普及を目的とした20年間の固定価格買い取り制度(FIT)を行うこととし、鶏舎の屋根一面に太陽光パネルが設置された。

ソーラーパネルを設置したひだかや及び農村エナジーが売電収入を得て、小松種鶏場が土地を提供している対価を受け取り、その資金を農場運営に充てていくシステムだ。

鶏舎新設のためのイニシャルコストはかかったが、それを踏まえても晴天率の高い長野県安曇野市での太陽光発電の成果は想像以上だったという。同じく高い晴天率を誇る岡山県にある会社だからこそ、この事業に対して勝算が見えていたのかもしれない。

畜産業以外の収入によりコストをかけた飼育が可能に

新鶏舎の特長はそれまでのケージ飼いを廃止し、一貫して平飼いでの飼育を行っていること。快適な環境化で飼養する“アニマルウェルフェア”を徹底することで、個体のストレスを大幅に軽減でき、その恩恵は味や香り、肉質にも良い形で表れる。ケージ飼いと比較して、管理の面などでコストのかかる平飼いを貫けるのも、太陽光発電の収入というファクターがあるからこそ。

こうして、提携前には考えられなかった畜産事業以外での収入が確保できたことで、餌や飼育方法に費用やリソースを掛けられる環境が整った。それにより、生産する鶏肉や鶏卵のクオリティも上がり、高単価でも高い品質のものを求める取引先とも巡り会えた。また、きちんと衛生管理がなされている平飼いは周辺地域への臭害も少なく、まさに、農業シェアリングにより、正のサイクルが完成したといえる。

オリジナルブランド地鶏の特徴とは

現在、小松種鶏場有明山農場では食用地鶏を約6,000羽、採卵鶏を約18,000羽飼育。自社オリジナルのブランド地鶏「美膳軍鶏(びぜんしゃも)」と「信州安曇野軍鶏」の二種を食用として育てている。美膳軍鶏は、弾力に満ちた肉の歯応えと、噛みしめるたびに溢れ出す旨味が特長。弾力があり旨みの強い愛知県岡崎市で生まれたブランド鶏「岡崎おうはん」と、大型の兵庫県たつの市で開発された「龍軍鶏ごろう」を交配して誕生。一方、信州安曇野軍鶏は、地鶏らしい歯応えとコク、それでいて加熱してもそれほど硬くならない肉質が魅力。国内で流通している鶏肉の9割以上を占めるブロイラー種を改良し、風味や味の質を高めた「レッドブロイラー」と、複数系統の軍鶏をかけ合わせた。どちらも鶏肉に携わる人たちのニーズや要望を吸い上げ、誕生した自信作だ。

自然豊かな安曇野の地で一羽一羽丁寧に育てられるこの二種は、孵化してから雄鶏で110日、雌鶏で135日の期間をかけて、ゆっくりと育てられる。一般的なブロイラー種は孵化から50日前後で出荷、地鶏の肥育期間の基準ですら75日と定められているというから、これだけでも非常に手がかかっているということが伝わる。長い時間を掛けることで、鶏自身の持つ本来の個体の力を最大限に引き出し、味わいの深い鶏肉になるのだそう。

安曇野山麓のメリットを存分に生かす

また肥育する環境にも、広大な敷地の利が生かされている。日本で地鶏として販売するためには日本農林規格で「28日齢以降は平飼いで、1平米あたり10羽以下で飼育する」という基準が定められているが、小松種鶏場では1平米あたり6羽前後という非常にゆったりとした環境で肥育を行う。自由に動き回り、ストレスなく体を動かすことで、肉の弾力性や旨味の増加にもつながっている。鶏が口にする素材にも、安曇野山麓のメリットを存分に生かす。特に名水百選にも選出される安曇野の水は、鶏肉の味にも直接寄与されているという。餌には、種鶏の特徴、成長速度に合わせたバランスの良い資料を組み合わせて使用。雄大な自然の恩恵を受けた良質な土壌と水、安全な飼料で育った鶏は多くの人から高い評価を受け、ブランドの認知度を向上させている。

世界で高まるブランド地鶏の評価

可能な限りの生産コストをかけているため、販売価格もそれに応じて高くなるのは当然。牛肉と同等の価格で取引されることもある。日本では牛や豚肉に比べて安価な食材という認識がある鶏肉。“ハレの日は牛肉、ケの日は鶏肉”といった旧来のイメージを払拭することは簡単ではないが、フレンチやイタリアン、日本食では焼鳥など、鶏肉を使った料理をメインに供する店が、コンテストやグルメガイドなどを介し、世界中で優秀な評価を受け、地鶏に対する価値が高まっていることも紛れもない事実である。全国で生産されるブランド地鶏の数も年々増加。まさに群雄割拠の地鶏戦国時代だが、その事業の在り方に一石を投じた農業シェアリングというスタイル。養鶏事業だけではない、もう一つの柱があるからこそ、自社ブランドの品質向上に努め、脂の量や肉のきめ細かさなど、取引先の要望に合わせてオーダーメイドのように鶏肉を提供することも可能になった。

自然豊かな安曇野山麓に相反する最新鋭の技術を用いて育てられるこだわりのブランド地鶏が、業界の新たな可能性を提唱していく。

ACCESS

株式会社小松種鶏場 有明山農場
長野県安曇野市穂高有明7406-2
TEL 0263-83-2008
URL http://komatsu-hiyoko.sakura.ne.jp/
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