スターシェフから絶大な信頼を得る魚の目利き。「本田屋」本田満輝さん/熊本県天草市

スターシェフの一皿を支える重要な要素の一つが、高品質な食材であることは間違いない。熊本県天草市には、その目利きを担う魚屋がいる。最良の魚を見極め、料理人の信頼に応えることを信条とし、地元漁師の暮らしにも目を向ける。海と厨房を繋ぐその人の名は、本田満輝さんだ。

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料理人を通して、天草の魚の価値を再認識

本田さんはもともと魚が好きで、地元の鮮魚屋に勤めていた。その時に出会った関西の料理人から影響を受け、“外”を知ることの大切さに気づいたという。「天草は島という地域性もあり、なかなか島外に出る機会がありませんでした。しかし、他の地域の魚を見たり、有名店を食べ歩いてみたりするようになり、自分の世界が広がっていくのを感じました」と本田さん。自身の生まれ育った天草の魚が料理人たちに認められていることを知り、誇らしさを感じた。

だが一方で、地元に向けての販売では魚を高く売ることが難しい現実にも気づく。日本の漁師は若年層を中心に減少傾向にあり、主な要因に厳しい経営環境が挙げられる。「正当な価格で取り引きしてくれる顧客を見つけられれば、漁師からも高い価格で魚を買い取ることができるようになる。そうすれば、地元漁師の暮らしを支えることにもつながるのではと考えました」。

漁師の暮らしを支えるために、独立

その後、鮮魚店から独立し、自身の店「本田屋」を開く。開業の際には鮮魚店に勤務していた当時から交流のあった料理人たちから「お金がかかっても構わない。とにかくいい魚を頼む!」と熱い声援を受けたという。そこで、地元の漁師たちと話し合いを重ね、漁獲後の温度管理など一次処理の質を高めることで最終品質を担保する連携を構築した。

市場の魚を全て見て、良いものだけを競り落とす

熊本県南西部、大小120の島々からなる天草諸島。その中心部にある天草市本渡(ほんど)の魚市場には、有明海(ありあけかい)、不知火海(しらぬいかい)、東シナ海の3つの漁場から1日3〜5トン、多い時で約300種類もの魚が運び込まれる。朝7時、活魚の競りが始まり、競り人と仲買人の威勢のいい声が一斉に響き合う。本田さんは、淡々とした様子で、迷いなく目当ての魚を次々と競り落としていく。

特定の魚を狙うのではなく、その日市場に並ぶ魚を全て見て、その中で良いと判断したものを全て購入するのが本田さんのスタイルだ。裏を返せば、注文を受けている魚種でも、品質が自身の基準に満たない場合は競り落とさず、料理人に「ない」と伝えるのも本田さんの信念。魚種にこだわって品質の基準を落として仕入れても、結局は料理人のためにならないからだ。本田さんの正直な姿勢と確かな目利きは評判を呼び、東京の予約困難寿司店「島津」、関西屈指の名店「鮨 三心」、長崎のレストラン「pesceco(ペシコ)」など、ミシュランガイドで星を獲得した”スターシェフ”からの信頼も厚い。

最良の状態で、料理人のもとへ

さらに、本田さんは店での魚の処理の方法にもこだわる。釣り上げられた直後の魚は興奮状態で筋肉に乳酸と血が回って食味が低下し、緊張で身は固く締まっている。そのため、仕入れた活魚は一旦店のいけすに運び、ストレス症状が落ち着くまで休ませる。そして、料理人の元に届く時間を逆算して、自らの手で神経締めや血抜きを行う。「最良の魚を料理人の元に届けるのが私の仕事。競り落として送って終わりではなく、ベストな状態に調えた魚をお渡しする責任がある」と本田さんは言う。

この日、本田さんが試食で用意してくれた刺し身は、クエ、石垣鯛、ブリの3種。1週間ほど熟成させたもので、醤油をはじくほど脂が身に溶け込んでおり、旨みのかたまりのような味わいに驚く。活魚のコンディションの整え方や締め方など、本田さんの知識と技術を学ぶために全国から漁師や料理人が店を訪れるというのも納得だ。

漁師を支えることが、海を守ることにもつながる

「昔はとにかく量を売るという時代でしたが、今は違います。さまざまな要因で海の生態ピラミッドは崩壊し、エサとなる海藻やプランクトンが減り、魚も減少しています」と本田さん。その結果、魚の価格は年々上がっており、このままではお金を持っている一部の人だけが食べられる食材となってしまうのではと危惧している。

良質な魚が適正な価格で取り引きされる社会になれば、漁師も適正な収入を得られる。すると、乱獲を防ぐことができるとともに、漁業も次の世代に継承され、豊かな海を守ることにつながるはずだと本田さんは考えている。「本田屋」の開業は、そんな思い描く未来のための第一歩だった。

2026年、「本田屋」は開業から10年目を迎える。本田さんは「この仕事をやってきたからこそつながった人の輪が、年々広がっていくのを感じています」と目を輝かせる。

市場での目利き、漁師との対話、料理人への責任。

その一つひとつの積み重ねが、「適正な価格で魚が取り引きされる社会」という思い描いてきた未来に、少しずつ近づける道になってきた。続けて、今後もさまざまな分野の職人と出会い、学びを得たいと展望を語る本田さん。開業から10年、「第一歩」だったはずの本田屋の歩みは、いま確かな手応えへと変わりつつある。本田さんは今日も変わらず海と厨房のあいだに立ち、次の10年に向けて、自分にできることを考え続けている。

ACCESS

株式会社 本田屋
熊本県天草市有明町小島子1370-3
TEL 0969-52-0302
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