歴史的にアメリカ文化の影響を受け、昔からコーヒーが親しまれてきた沖縄。そんな沖縄の「コーヒー豆」の物語もまた、新たな沖縄を知る体験のひとつだ。夜明けをむかえた沖縄産コーヒーの魅力を、「豆ポレポレ」のオーナーで焙煎士の仲村良行さんが教えてくれた。
コザ、そして高原へ

「コーヒーは苦いだけでなく、チョコレートぽかったり、フルーティだったり、多種多様で面白い世界です」と話す仲村さん。沖縄県中部に位置する沖縄市に2010年に店舗を出して以降、新しい焙煎機を迎えるにあたり一度移転し、2024年には店舗の老朽化に伴い、同市内の高原地区に新店舗を構えた。
コザにあった旧店舗は、1950年代に建てられた沖縄ではじめて洋食を出したニューヨークレストランの跡地。その趣を活かし、見る人に歴史を感じさせてくれる、そんなデザインだった。あえて残したままの当時の看板や青さび、店内の奥に鎮座する焙煎機、思わず丁寧に呼吸したくなる店内に棲みつく香り。仲村さん自身、古いものと新しいもののバランスが心地よく、沖縄とアメリカの文化が混じり合った当時のままの雰囲気が味わえる空間を大変気に入っていた。もちろん、高原の新店舗にもそのテイストは引き継がれている。
鍛錬の先で世界で認められた、焙煎の腕

仲村さんは、大学の卒業旅行の際に出会ったベトナムコーヒーに衝撃を受け、帰国後バリスタとしての経験を積んだ。何かを始めたら極めるタイプの仲村さんは、独学で試行錯誤を繰り返す。沖縄県内では学べない焙煎技術を求め、日本全国に足を運んだ。そんな鍛錬の中で挑戦し始めたのが、「ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ」(JCRC)だ。2017年に行われたJCRCで優勝、その後2019年イタリアで行われたWCRC(ワールドコーヒーロースティングチャンピオンシップ)に日本代表として出場し、初出場にして世界第2位に輝いた。
仲村さんは焙煎士として、飲みくちが綺麗であること、そして余韻の甘さを意識しているという。「浅煎りにしても深煎りにしても、あとくちが甘さで終わるように気をつかっています。」と語る。そんな仲村さんの豆を求め、今では日本全国から通う人もいる。
個性を引き出す、コーヒー豆との対話

コーヒーは嗜好品だ。人それぞれに好きなテイストがあり、飲む環境や時間によっても味わいの感じ方は変わる。仲村さんは焙煎士として品質を追い求めながら、そんな正解のない世界で、豆と対話し、そのポテンシャルや個性を引き出していく。
同じ農園の同じ品種であっても、収穫後のプロセス(工程)が違えば、それはまるで別の豆へと姿を変えるのだそう。例えば、果実のまま天日干しするとベリーのような濃厚な甘みとコクが宿り、水洗いで果肉を落とすとクリーンで澄んだ酸味が際立つ。
また、近年注目される発酵の工程も、味を左右する。酸素を遮断して微生物を活性化させることで、従来のコーヒーにはなかったワインやスパイスを思わせる複雑な芳香が引き出される。こうした無数の可変要素をコントロールし、一杯の物語を編み上げていくのが、コーヒーの面白さだと仲村さんは言う。
「コーヒー豆も、僕たち人間と同じでみんな同じじゃない。育った環境で個性が変わります。」と仲村さん。
焙煎の火の入れ方も、豆によって時間が違う。大きさ、硬さなど豆の状態を見極め、キャラクターを探りながらどのように仕上げていこうかイメージし、火の入れ方を決めていくのだという。豆の個性により、深煎りか浅煎りかだけでなく、飲み方まで変わってくる。ボディが強ければミルクに負けないカプチーノに、という具合だ。
収穫したコーヒーチェリー(コーヒーの果実)から、種子(コーヒー豆になる部分)を取り出し乾燥をさせる「精製」の工程に、栽培する農家さんのこだわりがある。そして、飲んだ時感じる風味や酸などのテイストは、その豆が育った土地の味がベースにある。豆との対話を大切にする仲村さんだからこそ、その豆がどこで生まれ、どのような環境で育ってきたのかを確認し、豆の水分値や発酵具合を確認する。
水分が抜けていくと音が変わってくる。
「豆ポレポレ」の豆は、そんなバトンリレーを経て、こだわりのドイツ製の焙煎機の中で熱を伝えられていく。
世界に認められた沖縄のスペシャリティコーヒー

そんな仲村さんに驚きを与えてくれるのが、日本ではじめてスペシャルティコーヒーの認証をとった沖縄県北部、やんばるの森にあるコーヒー農園ADAファームさんのコーヒー豆、『アカチチ』。
『アカチチ』は沖縄の言葉で夜明けを意味する「あかつき」が由来。これが流行りで終わらず、未来に繋がる夜明けになってほしいという思いを込め仲村さんが命名した。
品質のよいコーヒー豆の持つ酸の強さ、フルーツのようなテイストは、寒暖の差が生み出す。豆をぎゅっと硬くし、糖分を閉じ込め、コーヒー豆を甘くする。まさに、コーヒーも果実なのだ。しかし、沖縄は標高が低く寒暖の差が小さい。コーヒー豆を栽培する環境として恵まれているとは言えず、スペシャルティコーヒーの栽培は難しいと言われていた。では、なぜアカチチは沖縄で育ちスペシャルティコーヒーに認証されたのか。そこには、豆一粒ひと粒の完熟度にこだわるADAファーム徳田さんのこだわりと情熱がある。
「消費者が飲む一杯のコーヒーが、素晴らしい風味を持ち、満足できる美味しさであること」
日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が定義するスペシャルコーヒーの真髄は、豆の品質のみならず、生産から抽出に至る徹底した管理と持続可能性にある。その理想を体現するのが、やんばるの深い森に抱かれた「ADAファーム」の豆。 そして、生産者の想いと森の息吹を、最高の状態で私たちに繋ぐ「豆ポレポレ」の焙煎。沖縄の森で育ち、世界で認められた豆を、この島を愛する人が焙煎し、個性を引き出す。そして、それをこの土地の水を使って丁寧にドリップする。ふたりのこだわりが重なり合い、最高に贅沢な「満足できる美味しさ」が生まれる。
「この土地でしか作れない、世界を驚かせる一杯」を届けるために、彼らは今日も森とともに歩み、一粒の豆にその情熱を注ぎ込んでいる。



