福岡県の県庁所在地・福岡市に隣接し、東に緑豊かな山々、西は玄界灘に面し、白砂青松の美しい海岸線が広がる古賀(こが)市。この地にある「増田桐箱店」は、創業以来、国内外から厚い信頼を得てきた桐箱の専門メーカーだ。人間国宝の作品を保管するための特別な桐箱から、日常的に使える桐箱まで幅広い製品を製造している。その魅力や製作へのこだわりとは。
創業以来受け継がれる桐箱づくりの確かな技

創業は1929年。もともと広島の桐箱店で腕を磨いていた藤井さんの曽祖父が、博多人形や博多織など伝統工芸品の箱を作るために本家から分かれて福岡に店を開いたことに始まる。その後、2代目の祖父、そして3代目の藤井さんへと受け継がれ、地元・福岡に根差しながら、年間生産数約120万個を誇り、日本中の工芸品やギフトを収める桐箱を製作する国内最大級の会社に成長した。
桐箱の特性と環境への配慮

桐箱は古くから衣類、書物、宝飾品、茶道具、仏具、食品など、大切なものを保管するために用いられてきた。桐は調湿性、防虫性、耐火性に優れ、木材の中でも軽くて頑丈な特性があるため、持ち運びしやすく、変形することなく中に納められた品物をしっかりと保護してくれる。また、機能面だけでなく木目の繊細さや高級感を感じさせる上品な風合いも長年好まれてきた理由のひとつだ。さらに、杉が成長するのに50年かかる一方で、桐はその半分の25年と非常に成長が早く、丁寧に手入れをすれば何世代にも渡って使用できることから、環境に優しい素材としても注目されている。
用途の変化と桐箱の新たなニーズ
最近では、ライフスタイルの変化により、桐箱の用途にも変化が見られるようになった。着物や伝統工芸品を入れる桐箱の需要は減少傾向にあるが、一方で日本酒やチョコレート、お茶、牛肉など、贈答品のボックスとしてのニーズが高まり、桐箱はより身近な存在になってきた。
こうした広がる需要に応えるため、「増田桐箱店」では、工芸品に合わせて一つひとつ仕立てる職人の工房と、大量生産を担う工場という従来の二つの組織を統合。ベテラン職人の技を生かしながら、個別対応から多ロット生産まで幅広く対応できる体制を整えた。
桐箱には様々なランクがあり、人間国宝の作品や博物館収蔵品のために作られる一点物の高級箱から、食品や贈答品のパッケージとして使われる手頃な箱まで、材質や仕様によってグレードはさまざま。こうした幅広いニーズに応えられる体制を整えた結果、ギフト用途や海外輸出も増え、生産量は15年前の2倍以上へと伸長している。
受け身から攻めの仕事へ

祖父から家業を継ぎ25歳で代表に就任した藤井さん。若い自分だからできること、やるべきことを考え、「もっと桐箱のよさを若い世代に知ってもらう」、「社員の士気を高めるために受注を増やす」、「事業規模を拡大し桐箱の認知度を向上させる」という目標を掲げた。藤井さんは、常に箱は脇役で主役は中身、形も数量もすべてが中身ありきという受け身の姿勢にも疑問を抱き、このままではいけないと一念発起。桐の特長を活かしたオリジナル商品の開発に着手した。
ヒット商品「桐製 米びつ」の誕生

「桐箱をもっと身近に」をテーマに、桐箱の効果を知ってもらうこと、自社で蓄積してきた箱づくりの技術を活かすこと、なによりも欲しいと思える商品を作ること、この3つを目標に新商品の企画がスタートした。
まず、調湿効果と防虫効果、そして軽いという桐材の機能性から思い浮かんだのが「米びつ」だった。日々の食卓でごはんのおいしさ(=米の品質が変わらないこと)を実感してもらい、桐箱のすばらしさを伝えようと考えた。
次に、現代のキッチンに違和感なく馴染むシンプルで飽きのこないデザインを目指し、何度もプロダクトデザイナーとやりとりをし、デザインの美しさはもちろん、工場で作りやすい形かどうかも職人を交えて検討を重ねる。
最後に一番の悩みどころとなったのが“価格帯”。自分用、贈り物、輸出用など、様々な角度から適正価格を考えた。
こうして主役となる自社商品「桐製 米びつ」が誕生した。2017年、その品質と造形性が高く評価され、優れたデザインを後世に残すことを目的とした「JIDA DESIGN MUSEUM SELECTION」(公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会)Vol.18にも選定。これまでに累計40,000個以上を売り上げるロングセラー商品へと成長している。
購入者からは、米の保存状態が非常によく、米が常に新鮮! 軽くて使いやすい、シンプルなデザインでしゃれているといった声が寄せられている。実際に使った人が家族や友人への贈り物にするケースも多く、桐製 米びつのよさは口コミで徐々に広がっていった。
米びつをきっかけに、桐箱そのものに興味を持つ人や、海外からも問い合わせも増えた。予想以上に米びつが桐箱の魅力を伝える“営業マン”となった。
また、社内でもこれまで目にすることのなかった自作の商品をデパートや感度の高いインテリアショップなどで見られるようになり、もっといい加工ができないか?もっと効率よく作れないか?と、社員が積極的に商品開発に参加するようになった。その後発売した野菜やパンの保存箱や家の形をした本立て「本の家」なども好評を得て、着々とオリジナル商品を増やしている。
パッケージコーディネーターとしてのこれから

自社商品をつくったことで知名度が上がった「増田桐箱店」。今後は、質の高いものを提供する創業当初からの信念を守りつつ、箱の大きさやデザイン、ロゴの入れ方だけでなく、緩衝材、紐、発送方法や販売システム、宣伝方法などのソフト面も含めた広範な提案を目指している。「イメージ的にはメーカーというよりテイラー。工場のデータをもとに、今どんな商品をどういうパッケージにしたら売れるのか、海外向けにはこうしたらいいというような、顧客にフィットするコンサル的な役割も果たしていきたい」と藤井さん。単なる収納のための道具ではなく、日本の伝統文化と現代のライフスタイルを結びつける存在として、桐箱の新たな可能性を追求している。
大切なものを安全に美しく保管するという発想から生まれた桐箱。時代を超えて人々の生活にぴったりとフィットし、暮らしに彩りを添えてくれる自然からの贈り物だ。



