「この塩で世界中の人たちを健康にできる」ぬちまーす代表・高安正勝さん/沖縄県うるま市

直訳すると「命の塩」。そんな名前を持つ海塩「ぬちまーす」は、沖縄本島から橋でつながる宮城島の工場で作られている。21種類ものミネラル成分をたっぷりと含む滋味深いお塩。発売から27年、今や手にいれるのが難しくなってしまったその塩は、発売時から変わらぬ独自の製法で育まれている。

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風光明媚な丘の上で作られる天然塩

沖縄本島の中部、うるま市にある宮城(みやぎ)島。その小さな島には、製塩工場とショップ、レストランがある。ゆるやかな坂道を上っていった先にある株式会社ぬちまーすは、1997年から塩作りをはじめた。

沖縄の言葉で、「ぬち」は命、「まーす」は塩のこと。ぬちまーす代表の高安正勝(たかやすまさかつ)さんは、塩は人の生命の源といえるほど大事なものだとの考えからそう命名した。ぬちまーすは、一般の食塩よりも塩分が25%ほど低く、その分海洋ミネラルが21種類も含まれているのが特徴。特にマグネシウムは一般の塩の200倍も含んでいる。店頭、オンラインショップとも販売が開始されるやいなや、すぐに売り切れてしまうという。

工場敷地内には、鮮やかな青の濃淡が美しい、まるで絵画のような海を一望できる絶景スポットとして知られる岬「果報(かふう)バンタ」があり、誰でも見学することができる。「果報(かふう)」とは沖縄の方言で「幸せ」、バンタは「崖、岬」という意味がある。その名のとおり、見ているだけで心身ともに幸福感を得られるほどの絶景は、県内屈指のパワースポットとしても人気が高い。

そんな美しい海の間近に工場を構え、塩を作る高安さんだが、子どもの頃は父が毎日話して聞かせる偉人たちの話の影響で発明家になりたかったのだそう。琉球大学では物理学科に進んだ。在学中に、生命物理学を趣味として独学で勉強し、「生命はどうやって生まれたのか、ということをずっと勉強していたから、生命に必要不可欠な塩の作り方もすぐひらめいた。自分が作る塩で人類を救えるとわかった」と語る。

大学卒業後、塩作りを始めるまでは、沖縄の航空会社に技師として勤めた後に、洋蘭の栽培をしていた。繊細な洋蘭の花を傷つけずにビニールハウス内で冷却する微細霧装置を開発し、栽培に活用していた。その装置の開発がのちに製塩にも活かされることとなった。

塩の自由化のニュースを見てすぐ製法を思いつく

1997年1月に、国内での塩の自由化のニュースが流れた。それまで90年ほど国で専売されていた塩だが、塩専売制度は廃止され誰でも自由に塩を作って売れるようになるという。その報道を見た高安さんはすぐ常温瞬間空中結晶製塩法を思いついた。塩が降ってくる光景が目に浮かんだのだ。発明と同時にこの塩は人類を救う塩だと言うのが大学時代の勉強のお陰で分かったと思い、身震いがしたという。高安さんは、これが人類を救う塩だと考えていたが、なかなか世間は理解してくれず、約1年間、金融機関に融資の相談をおこなったが、いい返事はもらえなかった。そこで、高安さんは仕方なく山の上にあったラン栽培の温室を常温瞬間空中結晶製塩工場へ作り替えた。

しかし、これもすぐに満足のいく機械が完成したわけではなく、分解して組み直して、100回以上も実験を重ねてやっと思い描いていた塩のできる機械を作ることができたという。

独自の製法、常温瞬間空中結晶製塩法で作られる塩

ぬちまーすが作られるのは、高安さんが開発した常温瞬間空中結晶製塩法という特許製法だ。汲み上げた海水を濾過して霧状に噴霧し、温風を当て水分だけを蒸発させ、海洋ミネラル成分をすべて瞬間的に結晶化させている。

そうすることで、海水に含まれているナトリウム・マグネシウム・カリウム・カルシウムをはじめとしたミネラルが、海水と同じままのバランスで含まれた塩ができあがる。一つひとつ成分の違うものを食事で同時に食べることでおいしさが引き立ち、味わいが深くなるという。

ぬちまーすができあがるのは、製塩室に積もったものを乾燥させる過程だけ。そうして生まれるのは、とても粒子の細かいさらさらの塩。全量目視で検品され、包装後、金属探知機にかけられ店頭に並べられる。

海水は、工場の太平洋側の海水を汲み上げている。海流による影響や、今後人が汚す可能性、そして、川がないところを探し、ここを選んだと話す。このあたりは南から北への海流になっていて、南側に島がなく人がいないため今後も汚れる可能性がない。さらに、海底が岩盤になっており、大きな台風がきても海が濁らない場所となっている。そんなベストな場所をここ、宮城島で見つけた。

ぬちまーすは、2000年には塩が含有するミネラルの14種の数が世界一としてギネスに認定されている。2003年にはさらに多くの、21種ものミネラルが検出された。そして、運動機能とミネラルの関係や、生活習慣病の予防効果についての研究をしてきた結果が、2009年には「従来の塩の常識を覆す理想の海塩製法の開発」として認められ文部科学大臣賞を受賞している。

「身体のなかを海にすることが大切」

そもそも人にとってなぜミネラルが大事なのだろう。それは、ミネラルは胃腸での消化を促し、体内への栄養も吸収も担っているから。高安さんは、「体内に常にミネラルを多くしておくことで健康でいられる。身体のなかを海と同じ状態にしたら、体調すべてを整えてくれる」と話す。

こんな事例もあるという。生理痛がひどい人が毎日15グラムのぬちまーすを摂取したところ、次の生理から痛みがなくなったのだとか。「人が誕生する前は、すべての生物は海のなかで生命を産み落としていた。だから、赤ちゃんが育まれる女性の子宮を満たす羊水を海水と同じ成分にしておくことが大事」と言われれば、確かにとうなずいてしまう。

ぬちまーすは毎日15gをとることが推奨されている。腎臓が余分な塩分を尿に流す働きは、カリウムがあることで作用する。ぬちまーすにはカリウムも多く含まれているので、老廃物や毒素を排出する手助けもしてくれ、毎日15gとっても高血圧にはならないのだという。とりすぎると高血圧になるというのは以前専売されていた塩化ナトリウム99%の塩のことで、ぬちまーすの場合は1日15gとった方が、ミネラルの恩恵をすべて受けられるのだとか。実際に、毎日とる量を10gと15gで変えてみたところ、やはり15gとったほうが生理痛に効果があったという。

人が誕生するよりもずっと前から、地球上の生命はすべて海のなかに存在していた。魚など海中の生物は、食べ物をとる時は海水も一緒に摂取する。それが自然なことであるのに、人は陸上で生活を始めても、海水の栄養分の代わりとなるものをとるべきであるということが考えられてこなかった。それさえちゃんと摂取できれば、海のなかで生きていた時と同じような身体の状態を保つことができる。つまりそれが健康に直結し、病気にならないということだと、高安さんは説く。

無調整の豆乳に、ぬちまーすを入れただけでできたお豆腐をいただいた。通常豆腐を作るには、豆乳ににがりを加える。にがりを構成するのはマグネシウムだけれど、ぬちまーすにはマグネシウムがしっかり残っているため、豆乳にぬちまーすを溶かした少量の水を入れてしばらく混ぜるだけで豆腐ができあがってしまう。いただいた、できたてふわふわの豆腐はまろやかながら味がしっかりとしていて、栄養がたっぷり含まれていることを示しているかのようだった。

特にここ数年は、できた製品が飛ぶように売れる状況が続いている。現在は、機械を大きなものに変え、今の何倍もの効率で塩が作れるように技術開発を進めているところ。そして、ぬちまーすの栄養成分をそのままに、手軽にとりやすくなるサプリメントも開発中とのこと。

高安さんがあっさりと宣言する「ぬちまーすで世界中の人たちを健康にできる」という言葉。壮大な熱い想いも、人の原点に立ち返るという、実はとてもシンプルなことなのかもしれない。

沖縄の豊かな海原で育まれる海塩が多くの人の健康を守ってくれることを切に願い、宮城島では今日も真っ白なぬちまーすが生まれている。

ACCESS

株式会社ぬちまーす/ぬちまーす観光製塩ファクトリー
沖縄県うるま市与那城宮城2768
TEL 098-983-1111
URL https://nuchima-su.co.jp
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