沖縄ローカルのビールを表現する CLIFF GARO BREWING 宮城クリフさん/沖縄県沖縄市

今や日本全国にたくさん存在する、小さな規模でビールを生産するマイクロブルワリー 。ここ沖縄にも20軒ほどのブルワリーがあり、それぞれユニークなクラフトビールが造られている。ビールの醸造を始めて6年となる宮城クリフさん。沖縄ならではの素材を積極的に取り入れながら造られる、風味豊かなビールは注目を集めている。

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イギリスの田舎暮らしで出会ったビール文化

沖縄本島の中部、沖縄市にある、ビールの醸造所とビアレストランが一緒になったCLIFF GARO BREWING(クリフ ガロ ブルーイング)。そこでビールを製造し、レストランを営んでいるのは沖縄育ちの宮城クリフさんだ。宮城さんは画家であり、デザイナーでもあり、ビールのラベルも宮城さんが手がけている。

クリフ ガロ ブルーイングでは、ホワイトエール、ペールエール、セゾンなどの、エールという種類のスタイルを中心に、さまざまなビールを製造している。ボトルビールが購入できるほか、レストランでは、常時7、8種類ほどの生ビールがそろい、ビールにあうようなジャンルに富んだお料理も味わえる。それから、地元アーティストの作品の展示会も毎月行っている。ビールを味わいながら、アートも楽しめる空間にすることは、宮城さんがはじめから構想に入れていたことのひとつだ。CLIFF GARO BREWINGのGAROは、画廊の意味も込められている。

宮城さんは沖縄で様々な仕事をしたのち、絵画などのペインティングを学びたいと、29歳でロンドンの美大へと進んだ。卒業後はアート活動をしながら広告代理店で仕事をしていた。同じく沖縄出身の奥さんと結婚して子どもが生まれ、自然豊かなところで暮らそうと、ウェールズ地方に引っ越した。

当時ロンドンのパブなどでは、日本と同じく、よく冷やして飲むクリアな味わいのラガービールが広く親しまれていたが、ウェールズに移ると、リアルエールというイギリス伝統のビールを好んで飲んでいる地元の人たちが多く、大きなところから小さなところまで数多くのブルワリーがあったという。

リアルエールは、豊かな香りやコクのあるエールビールの1種で、常温で飲む炭酸の弱いビール。製造方法も一般的なビールの製法とは異なっていて、ワインやウィスキーと同じように横にねかせた樽の中で熟成させるイギリスのトラディショナルスタイルだ。

感銘を受けたリアルエールのお祭り

土着のビールではあるけれど、ラガーに押され、当時リアルエールは消費量的に下り坂の状況だった。そんななかイギリスでは、それぞれの地域のリアルエールを楽しく味わおうというイベントが古い教会などでちょこちょこ行われていたのだそう。地域の人たちの昔からの憩いの場所で、大人も子どもも分け隔てなく楽しみ、文化を守ろうという動きにすごく感銘を受けたという。小さなブルワリーを切り盛りするおばあちゃんが樽を抱えてやってくる光景なども、印象に残っているワンシーンなのだとか。

ウェールズの人たちのそんな営みが、宮城さんにとって地域に根ざした文化としてのビールとの出会いだった。

沖縄に戻り、ビールを造りたいという思いが大きくなっていく

子どもの成長なども考え、このままイギリスで暮らすか、沖縄に帰るかを考え、沖縄に戻るという選択をした宮城さん夫妻。戻ってきてからは、デザインの仕事をしながら、個人のアート活動も並行する生活が4年ほど続いたなかで、いつからか「ビールを造りたい」という思いがだんだんと募っていったという。

イギリスでブルワリーを見学したことがあったくらいで、ビールの造り方は知らない。仕事をしながら、ビール醸造の研修を受け、酒造免許も取り、今から6年前にクリフ ガロ ブルーイングを始めた。

はじめはやはり、自分がこの世界に入るきっかけともなったビールを造りたいと思った。「樽が違うのでリアルエールではないけれど、イギリススタイルのリアルエールぽいものを2種類完成させました。知人に飲んでもらうと、おいしいって言ってくれるけど、目はそう言ってない気がして。それはなぜだろうって考えた時に、まだ沖縄の風土と会話してなかったなって気づいて」と振り返る宮城さん。

湿度もなく、気温も沖縄よりだいぶ低い土地で好まれているものをそのまま造ってもうけるわけがなかった。それを身をもって感じてからは、沖縄の気候風土にあう、沖縄らしいビールを造るにはどうするべきかということを考え始めた。

沖縄で育つ素材をビールのアクセントに

ビールの主原料は、麦芽とホップ、酵母。そこに少しずつ、副原料として沖縄産の素材を取り入れることに挑戦し、今では、フルーツやハーブなど沖縄の旬のものをふんだんにつかった季節ごとのビールを製造している。パイナップル、グァバ、カーブチーという柑橘、ショウガ科のハーブの月桃、沖縄シナモンともいわれるカラキなどだ。それらをつかったビールが、いまはクリフ ガロ ブルーイングの主力製品となっている。

定番のひとつ、「KAMMY TYLER(カミータイラー)」は、沖縄の小麦、コリアンダーシード、カーブチーをつかったホワイトエール。香りがふわっと広がり、すっきりとした口あたりで、爽やかな苦味が心地いいビールだ。

麦芽、ホップ、酵母とも外国産のものがほとんどだけれど、知り合いの農家さんの協力で大麦を育てていて、一部その麦芽もつかっている。種を蒔いたあとは、スタッフらと一緒に定期的に草刈りをおこなっているそうだ。

ビールの商品名にもストーリー性を

ビールの商品名は、知り合いの名前を由来にしたものがいくつもある。「KAMMY TYLER」は、農家の平良カミさんから。さくらんぼをつかったフルーツセゾンの「MANNAR SHOW(マナーショー)」は農家の満名(まんな)しょうごさんから。意味合いよりも音の響きに重きをおいて、ヨーロッパの人の名前にありそうな、似たようなサウンドでつけているのだそう。

宮城さんは、絵やデザインの仕事と、ビール醸造家としての仕事は、“表現“という点で同じだととらえている。色がない麦芽をつかって、フルーツの色を映えさせているものなど、まさに絵画と同じだった。視覚でとらえるものだけでなく、ビールの名前も、ビールの味わい自体も、宮城さんにとって表現のひとつだ。

麦芽や酵母、ホップの種類、その掛け合わせ、仕込む水の性質、発酵の温度に時間など、仕込みから完成までに調整するポイントがいくらでもあり、それを少し掛け違えただけでまったく違ったものになってくる。世話をしてコントロールしないとならないことが数知れない。かといえば、生き物なのですべてがコントロールできるわけでもない。

新しく造るビールの味の設計は、85%くらいは味を想像しながら組み立てるけれど、残りの15%くらいは、できあがりの発見の部分をあえて残して造るのだそう。

ビールに取り入れているフルーツなどは、農家さんのところに行って一緒に収穫をすることも少なくない。そうすることで、作物自体の理解も深まるし農家さんの喜びや苦労も知ることができるし、スーパーで買って仕込みをするのとでは、ものづくりのレベルが違ってくる気がしている。

沖縄には、本土では育たないようなおもしろい素材がたくさんあって、可能性をまだまだ感じているからこそ、それらをキャッチしながら沖縄らしいおいしさを追求していく。

ブルワリーとレストランとお客さん、農家さんにアーティスト、クリフ ガロ ブルーイングというプラットフォームを通して、つながりや交わりがふくらむ。地域の人たちが一緒になって楽しんでくれる場所であることを目指していきたい。

クリフ ガロ ブルーイングはこれからも、自由に、軽やかに、この土地に寄り添った沖縄ローカルのビール造りと、人が育む豊かな場づくりを描いていく。

ACCESS

CLIFF GARO BREWING
沖縄県沖縄市高原6-2-8
TEL 098-953-7237
URL https://cliffbeer.jp
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