伝統の天然醸造にこだわる醤油づくり 創業200有余年「岡直三郎商店」/群馬県みどり市

群馬県みどり市に蔵を構える「岡直三郎商店」は、江戸時代の天明7年(1787年)創業という、230年をゆうに超える歴史ある老舗醤油蔵。醸造工場と店舗兼主屋からなる大間々工場では、代々受け継がれた木製大桶にて仕込む、伝統の醤油づくりを今もなお続けている。

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風光明媚な大間々の地に創業

群馬県の東部に位置するみどり市は、赤城山東南麓の豊かな自然に恵まれ、南北に長い地形の約8割を山林が占めている。山間部と平野部の中間にあたる大間々地区に「岡直三郎商店 大間々工場」がある。すぐ近くには渡良瀬川が流れ、この川に沿ってわたらせ渓谷鐵道が走る。「関東の耶馬溪(やばけい)」とも讃えられる美しい渓谷「高津戸峡(たかつどきょう)」は新緑と紅葉の名所。河川と渓谷が織りなす雄大な景色を楽しめるとあって、みどり市屈指の観光スポットとして人気のエリアだ。

かつての大間々は、江戸時代に足尾銅山から産出した銅を江戸へ運ぶ「あかがね街道」の要衝として、また絹や生糸の集散地として、人々が行き交い栄えた宿場町。近江商人であった初代・岡 忠兵衛は、水が豊かで風光明媚な上州・大間々のこの地に、「河内屋」の屋号を掲げ、醤油醸造業を営んだのが始まりとされている。

国の有形文化財に登録された岡直三郎商店

現在も桐生から日光へ向かう国道122号(あかがね街道)沿いには趣のある蔵や商家、洋館などが点在。レトロな風情が漂う町並みは往時の面影を色濃く残す。「今も創業の地に当時の姿を残せているのは大変ありがたいことです」そう話すのは八代目当主の岡 資治さん。街道沿いに建つ岡直三郎商店は、2013年、大間々工場の店舗兼主屋ならびに文庫蔵が、国の登録有形文化財(建造物)に登録された。店舗前には巨大な火入れ釜が堂々と鎮座し、訪れる者を出迎えている。

昔と変わらない木桶仕込みの天然醸造

発酵・熟成は自然の気候の中でゆっくりと。これだけはずっと続けていきたい、そう思っています」。岡さんが明言するように、岡直三郎商店では代々受け継がれた大きな木桶を使い、手間暇を惜しまず昔ながらの醤油づくりの製法を守り続けている。

自然の気候と四季の気温の変化に委ねる天然醸造は、発酵・熟成におおよそ1年から1年半という長い時間がかかる。職人が木桶に仕込んだもろみの状態を確認しながら、発酵を促すために撹拌する作業「櫂(かい)入れ」を重ねていき、搾りの時期を見極める。職人による長年の経験と勘が欠かせない。
木桶にこだわる理由は、使い続けることで仕込蔵や木桶に微生物が生育し、醤油にとって心地よい環境が保たれ、その蔵独自の風味を醸し出すからだ。「今は木桶を作れる職人がいないので」残されたものを大切に使っているという。ちなみに木桶は竹で編んだ「箍(たが)」で周囲をしっかりと固定されており、1本たりともクギは使われていないそうだ。

100年ぶりの大改修を経て工場をリニューアル

大間々工場は蔵の老朽化に伴い、2017年に大規模な改修を行った。「醤油屋や味噌屋はどことなく『歴史が古いから許される』という風潮がありますが、清潔さを欠き、安心安全がおろそかになってしまったら本末転倒。古い建物のままではいけない。安心安全を徹底しなければ生き残れない」と危機感を持って、未来に引き継いでいくための大改修に踏み切ったのだ。明治期に建てられた蔵2棟を取り壊し、その跡地に鉄骨の工場を新設。最新設備の導入により、徹底した衛生管理のもとで原料の処理や圧搾、充填作業を一新し、安心安全を強化した。仕込蔵も一部修繕が加えられたが、古き良き醸造現場の特徴はしっかりと残っている。

新しくすべきは新しく、残すべきところは残す

仕込蔵の中に入ると大豆の発酵・熟成による独特の香りが漂う。床は土間からコンクリートに替えられたが、大きな木桶はそのままに迫力のある姿を見せている。木桶を床面に置かず、浮かせて配置してあるのは、修繕が必要になった場合に下から潜り込めるからだという。蔵の中の階段を上ると、今度は木桶の中に仕込まれた、もろみの様子を上から見ることができる。床板は張り替えられているが趣深い天井の梁は昔のまま。そこに住み着いた酵母菌こそが天然醸造の醤油づくりの生命線だ。蔵付きの生きた酵母はまさに、岡直三郎商店の財産なのである。「残すべき伝統は守りつつ、徹底した安心安全との両立を目指していきます」と岡さん。

「日本一」の名にふさわしい厳選材料

こうして岡直三郎商店が丹精込めてつくる伝統の天然醸造醤油は、じっくり発酵・熟成させた濃口醤油が基本。原料となる大豆は国産の丸大豆、小麦は群馬県産にこだわる。特に「日本一しょうゆ」(登録商標)と銘打ち、親しまれている「一番しぼり」、「二段仕込み」(一度仕上がった生醬油に再び麹を入れて二度仕込む醸造法)においては、国産大豆の中でも生産量が極めて少なく、希少な国産の有機丸大豆と有機小麦を100%使用している。この「日本一しょうゆ」の商標には、初代・近江商人の強い志が込められているのだ。
このほか小麦を使わず大豆と塩だけ発酵熟成させ、濃厚なうま味と塩味、独特の香りを持つ「たまり醤油」や、火入れ(加熱処理)をしていない天然酵母の生きた、搾りたての麹の香りと風味が楽しめる「生揚げ醤油」(きあげしょうゆ)も人気が高い。近年、ラーメン店から「生揚げ醤油を使いたい」という声が寄せられ、徐々に取引先を増やしているとのこと。

お客様にもっと醤油の素晴らしさを伝えたい

古民家を改装した店内では、岡直三郎商店自慢の天然醸造醤油をはじめ醤油加工品も数多く並び、ショッピングが楽しめる。醤油のテイスティングもできるから好みの醤油を見つけることができる。ここで紹介したいのは二段仕込み醤油を使用した、この店舗でしか味わうことのできないソフトクリームの存在。コクのある濃厚な醤油と、甘くミルキーなソフトクリームとの思いも寄らない相性の良さにきっと誰もが驚くだろう。例えるならば「キャラメルのような深い味わい」だ。

仕込蔵の見学も随時受け付けており、多くの観光客が蔵を訪れるようになった。奥座敷では観光客が買い物がてらくつろぐこともできる。このように町おこしによる地域貢献にも尽力している岡直三郎商店は、今ではみどり市の観光名所のひとつとして地元から期待が寄せられている。

岡さんは「日本国内のみならず、世界中の方々においしい醤油文化を楽しんでいただくことが最大の目標です」と語る。江戸時代から二百有余年、代々受け継がれた仕込み桶を用い、職人が日々丹精込めて造る伝統製法の木桶仕込み天然醸造醤油。折しも2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本の食文化は海外からもおおいに関心が高まる昨今において、「日本一しょうゆ」の名が世界へと羽ばたく日はそう遠くはないはずだ。

ACCESS

岡直三郎商店 大間々工場
群馬県みどり市大間々町大間々1012
TEL 0277-72-1008
URL https://www.nihonichi-shoyu.co.jp/
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