砂地だからこそシャキシャキに。「砂丘らっきょう」を育てる香川恵さん/鳥取県鳥取市

砂丘だからこそ育つ、シャキシャキ食感が特徴の「砂丘らっきょう」。砂丘らっきょうの歴史を継承し、長年栽培を続けているのが、香川恵(めぐむ)さんだ。2016年には、地域ならではの特徴を生かした名産品を守る「地理的表示保護制度(GI)」にも認定され、その名は広まり続けている。

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鳥取砂丘が目の前にある鳥取市福部町

鳥取県の北部、日本海沿岸に東西約16kmにわたって広がる鳥取砂丘は、らっきょうの一大産地だ。そのうち、観光地として多くの人が訪れるエリアは2kmほど。残りの砂丘地帯には、あたり一面にらっきょう畑が広がっている。らっきょうはやせた土でも育てやすい性質を持ち、全国でも砂地で栽培している場所は多い。福部町では約60軒の農家がらっきょう栽培に従事しており、国内での出荷量は全国トップクラスだ。

砂丘の宝石、砂丘らっきょう

砂丘らっきょうの特徴は、シャキシャキとした食感にある。水分や栄養素が多い土地では、らっきょうの実が大きくなりやすく、内側の皮(内鱗)と外側の皮(外鱗)の厚みに差が出る。一方で、鳥取砂丘では土の中の水分が少ない分負荷がかかり、一枚一枚の皮が薄く、身が引き締まったらっきょうが育つ。らくだ系と呼ばれる長卵形の品種との相性もよく、内鱗と外鱗の厚みが均等になるほど歯切れがよくなるため、過酷な環境で育つ鳥取砂丘のらっきょうは驚くほど軽やかな食感になるのだ。

また、らっきょうは栄養素が少ない場所で栽培すると色白になりやすい性質を持つ。保水力・保肥力が低い鳥取砂丘だからこそ、真っ白で透き通った美しいらっきょうが育つのだ。キラキラと輝くその姿から、「砂丘の宝石」の愛称で親しまれていることもうなずける。

砂丘らっきょう100年の歴史

「実は砂丘らっきょうの歴史は古いんです」と話すのは、砂丘らっきょうの生産者の香川さん。会社員として働きながらも、らっきょう栽培を続けてきた大ベテランだ。

「江戸時代に参勤交代の参加者が持ち帰った説などもありますが、本格的な栽培が始まったのは大正時代から。それまでは梨やスイカなどの果物を育てていたものの、保水力がないために実が大きくならなかった。そこでいろいろな作物を試した結果、らっきょうが向いていることがわかったんです。その後、昭和40年代からは加工なども行われるようになり、さらに盛んになっていきました」。

2014年には販売開始から100年を迎えた砂丘らっきょう。2016年には「鳥取砂丘らっきょう・ふくべ砂丘らっきょう」として「地理的表示保護制度(GI)」 にも登録された。GIはその土地ならではの恵みを受けて育った作物などを地域の知的財産として守っていくための制度。国が認める品質であることが認められ、「鳥取といえば砂丘らっきょう」と認知されるほどのブランド化に成功した。

過酷な環境下で行うらっきょう栽培

らっきょうは、7~9月にかけて一粒ずつ手で植え付けを行う。水を撒いて湿気を含んだ砂の上は60度近くになるのだから驚きだ。10月になると開花を迎え、赤紫色の可憐な花が絨毯のように鳥取砂丘に広がる。

提供元:公益社団法人鳥取県観光連盟

その後ゆっくりと砂の中で育ち、12月には雪の下で冬を越す。植えたときには1球だったらっきょうは、6~8球に増えて育っていく。

らっきょうは小さな玉ねぎのような構造で、砂の上に葉が茂り、本体は砂の中で成長する。

そのため、病気にかかっているのか、しっかり育っているのかの判断が難しい。「葉っぱを見ながら判断して、肥料をやったり、消毒や防虫をしたり。収穫して初めてその年の出来がわかるので、毎年初めてのつもりで向き合っています」と香川さんは語る。

経験が必要な切り子の作業

もっとも大変な時期は、収穫シーズンである5~6月。毎日1,300kgものらっきょうを掘り起こし、手作業で根や茎を切らなければならない。

出荷時は、不要な茎のみを落とし、束のまま出荷する「根付きらっきょう」と、茎だけではなく根も切り落とし、塩漬けにして出荷する「洗いらっきょう」の2種類に分けられる。どちらも手作業で行うため、各農家では数十名の「切り子」と呼ばれるスタッフを集めなければならない。特に、洗いらっきょうを加工する際はひとつひとつの球に分けて適度な大きさに切る必要があり、熟練した技術を要する。

「収穫時の掘り起こし作業は機械でできるようになりましたが、切る作業は細かいので機械化が難しい。1ヶ月のみの仕事なので切り子さんを集めるのは大変です。慣れるまで時間もかかるし、匂いもきつい。ここをなんとかしないと、若い世代は増えないと思っています」。

机に設置した菜切り包丁にひたすららっきょうを通し、切っていく。切った分量に対して給料が支払われるため、ある程度経験を積み重ねなければ稼げない。ベテランの切り子さんも減ってきているため、農協や企業とも協力して、切る作業を機械化できないかを模索中だ。

らっきょうを知り尽くした農家がつくるレシピ

「愛情をかけて育てたらっきょうをより広めたい」と香川さんたちが取り組んでいるのが、簡単にできるらっきょう漬けの講習会だ。通常、らっきょうの甘酢漬けを作る際は、2週間ほど塩水に漬ける工程が必要だが、それでは時間も手間もかかってしまう。より手軽にらっきょう漬けを楽しんでもらうため、買ったその日に漬けられる「かんたん漬け」を教えている。

かんたん漬けの手順はシンプル。まずはらっきょうの根と茎を切り、流水で薄皮がはがれる程度に揉みながら洗う。塩をまぶして再度洗ったあと、10秒間お湯に通す。湯切りをしたら、煮沸殺菌した瓶に入れ、らっきょう酢を注ぐだけ。1ヶ月ほど冷蔵庫で保存すれば、臭みも抜けて美味しい甘酢漬けができる。「かんたん漬けなら、自宅ですぐに漬けられる。栄養価も高いので、ぜひ若い方にも漬けてもらいたい。自分で漬ける楽しさを味わってほしいんです」と奥さまの佐江子さんも率先して教えている。

脇役ではなく主役として食べてほしい

また、脇役ではなく主役として食べてほしいという想いから、さまざまならっきょうレシピも発信している。おすすめは採れたてのらっきょうでしか作れない「焼きらっきょう」。フライパンで空炒りしたらっきょうに、しょうゆやみりんなどの漬けダレをサッと絡めたら完成。アツアツでも、冷やしても美味しい一品だ。

他にも、甘酢漬けのらっきょうを、豆板醬で下味を付けた豚肉で巻いて揚げる「らっきょうカツ」や、ハム・かぶ・大葉と一緒にさっぱり食べられる「フラワーらっきょう」など、普段は見かけないメニューがズラリ。「消費者の方に買ってもらう、食べてもらうには、簡単で美味しいレシピを知ってもらうことが大切ですから。いつもと違う食べ方で、ぜひ主役として味わってみてほしい」と香川さん夫妻は教えてくれた。

らっきょう農家の未来のために

砂丘でのらっきょう栽培は簡単ではない。保水性がない分、肥料や水も多く与えなければならないし、らっきょう以外の作物が育てられないため、連作障害(同じ作物を作り続けることによって、土壌の栄養素が偏り、作物が育ちにくくなること)を防ぐ消毒作業も必要だ。

しかし、収穫の繁忙期を除けば働く時間も調整でき、らっきょう1本でしっかりと独立できる。何より手をかけた分、美味しいらっきょうになってくれる。キラキラと輝く真っ白ならっきょうが育ったときには、収穫の喜びもひとしおだ。

「今は少しずつ若い世代の人たちも増えてきたけれど、切り作業が手作業のため、時間も人員もかかることが課題です。機械化でその部分が改善されるように動いていきますよ。らっきょう作りの楽しさを知ってもらって、らっきょう農家がもっと増えたらうれしいですね」と香川さん。
砂丘らっきょうは、新たな100年の歴史を歩み始めている。

ACCESS

香川恵さん 佐江子さん
鳥取県鳥取市福部町
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