伝統と独創性を併せ持つ唯一無二の山形桐箱 「有限会社よしだ」吉田長芳さん/山形県山形市

伝統と独創性を併せ持つ唯一無二の山形桐箱 「有限会社よしだ」吉田長芳さん/山形県山形市

山形県山形市で、3代にわたって桐箱を作る「有限会社よしだ」。90年以上受け継がれてきた技術から生み出される桐箱のラインナップは、伝統工芸的なデザインから現代の生活に沿ったものまで幅広い。木、石、ガラス。マテリアルが多様化した現代において桐製品がもつ可能性を拡げるため、奮闘している。


祖父から孫へと繋がれる桐箱づくり



JR山形駅から徒歩10分程度の山形市五日町に工房を構える「有限会社よしだ」。創業してから90年以上にわたって木箱、とりわけ桐箱を制作している。桐箱というと伝統工芸品といった格式ばったイメージを持つかもしれないが、「有限会社よしだ」の桐箱は一味違う。熟練の技術に裏打ちされた伝統工芸的な贈答用桐箱はもとより、桐製のブレッドケースやスマートフォンスピーカーなど現代人の生活に溶け込むアイテムまで幅広く、顧客の要望にオーダーメイドで応えてくれるという。従来の「桐箱」のイメージにとらわれない独創的な商品を次々と考案している「有限会社よしだ」の3代目、吉田長芳さんにお話しを聞いた。


食文化の変化が桐箱作りへの道を選ばせた



桐箱の制作を始めたのは、吉田さんの祖父である吉田長助さんだ。明治生まれの長助さんは、もともとはお膳や重箱をつくる木地職人だった。しかし段々と食事をとるスタイルがお膳からテーブルに変化したことでお膳の需要が低下。そんな中で始めたのが、地元の桐を用いた桐箱作りだったという。


「お膳を作る量が減ってしまって、さあどうしようかというところで始めたのが桐箱だった。昔は桐も山形でとれたし、大事なものを入れる容器として桐箱には馴染みがあったから」と吉田さん。


初代の吉田長助さんは1930年から桐箱制作を開始。その後、2代目である息子の長四郎さんが「『越中富山の置き薬』桐の引き出し箱」を全国展開するかたわら、地域産業である山形鋳物や米沢織物、さくらんぼをいれる桐箱を作成した。そして、現在の代表である長芳さんが1991年から3代目として従事。伝統的な桐箱にとどまらず、現代の生活に馴染む様々な商品を意欲的に開発している。


その技術は確かなもので、初代の長助さんは1980年に山形市技能功労者褒賞に、2代目の長四郎さんは1993年に同じく山形市技能功労者褒賞、2020年に山形市伝統的工芸産業技術功労者褒章に、3代目の長芳さんは2019年ににっぽんの宝物JAPANグランプリ「工芸・雑貨部門」グランプリ、2022年に山形市伝統的工芸産業技術功労者褒章と、親子3代にわたって数々の賞に輝いている。


大切なものの長期保存に向いている桐箱



桐箱の特長は、その調湿性だという。湿度のある日本では、昔から大切なものを桐箱に入れて保存することが多かった。桐箱の中は湿度70%を超えることがないためカビが生えづらいからだ。また、果物などの青果物の日持ちもよくなるそうだ。薬にしても同じで、湿度を避けて保存できるという点が薬箱に向いているのだとか。越中富山の薬売りでいうと、元々は紙袋で運搬されていたが、初代が桐下駄の廃材で薬用の箱を作成し、機能面の良さから2代目が「『越中富山の置き薬』桐の引き出し箱」として完成させた。


樹齢30年くらいから使えるという桐の木材は、寒い土地で育ったものの方が目が詰まっていて良いという。地元の桐から始まった山形桐箱が発展したのには、そんな理由もあるのかもしれない。しかし桐にも弱点はある。それは、柔らかい木なので傷つきやすいということ。例えば桐箱の場合、仕上げ時に角を取らないと欠けてしまうのだとか。


「とはいえ、桐の可能性は無限大だと思っているし、その人の大切なものを守り、次の代まで残せるのが桐箱の良いところ。だからこそ、伝統を守りながらも新しいものにチャレンジしていくことも大事だ」と吉田さん。


そのような姿勢から生まれたオリジナル製品で、「有限会社よしだ」は注目を浴びることとなった。


パスタやパン、御朱印帳をいれる



「有限会社よしだ」が今でもメインで制作する贈答用の桐箱は、基本的には市場や顧客の需要によって左右される、いわば「待ち」の商売だ。その状況では今後生き残っていけないのではと約8年前に始めたのが、「KIRI STYLE」だ。


どのような要望にも応えるべくオーダーメイドで桐箱を制作する吉田さんが受けた依頼が、米びつ。それが2015年にグッドデザイン賞を受賞したことをきっかけに、贈答用だけではない桐箱を考案し始めたという。


また面白いのが、各商品のネーミング。例えばパンを入れる桐箱は「吉田パン蔵」、パン専用のまな板は「パンの晴れ舞台」、パスタの保存箱は「吉田パス太」、茶葉を入れる箱は「ティータイム三姉妹」とされ、それぞれ「長女・ヨシダレイコ」、「次女・ヨシダヨウコ」、「三女ヨシダミドリ」といった、思わずくすっと笑ってしまうような名前が付けられている。

特に「パン好きのため」を打ち出した桐製ブレッドケースは、桐の持つ調湿性や抗菌作用、そしてクッション性を活かし、カビや乾燥からパンを守ってくれるという。パンを美味しく長持ちさせられることからフードロス削減にもつながるとあって、パン食を好む一般消費者からのニーズだけでなく、今では山形県内のベーカリーとのコラボ桐箱も販売されている。


そのほか、「Traveler’s KIRIBAKOトラベラーズ キリバコ」と銘打たれたシリーズでは、御朱印帳を1箱に1冊おさめるユニークな桐箱も。桐の保存性で、旅の思い出を永遠にしてほしいという思いが込められている。そして、「にっぽんの宝物JAPANグランプリ『工芸・雑貨部門』グランプリ」に輝いたのが、「本の正倉院」というシリーズ。本の虫食いに悩むコレクターからの依頼で作った本1冊を入れるためのオーダーメイドの箱というこれまでにあるようでなかったアイテムだ。


「新しい桐箱を始めてから注目されることも増えたし、実際に売上も上がっている。オリジナル商品を作って、自分たちから打って出られるようにしたい。ただ、パンを入れる箱に関しては、作った時はこんなに評判が良くなるとは思わなかった」と吉田さん。


桐がもつ艶や特性を大事に



多種多様な商品をひとつひとつ手作りで仕上げる吉田さん。社屋の1階で製材を行い、2階で組み立てを行っているという。また2階には仕上げのための機械があるが、箱作りの場以外では見かけない、いわば箱屋専用のものだという。


「つるつるに仕上げないと長持ちしない」ため、カンナ仕上げにこだわり表面をつるつるにするそうだが、完成した箱を見ると一分の隙も無くぴったりと蓋が閉まっており、どこが開くのかわからないほど。そのような精巧な作りは長年の技術があるからこそ成せるわざで、他の箱屋との違いでもある。


「桐の特性を活かしたものづくりをしているが、逆に言うと桐の特長を発揮できないものであれば作らない。そうでないと、桐で作る意味も、うちで作る意味もなくなってしまうから」。


成長の証として、毎年ひとつ新しい商品を



高齢化などの理由から箱職人は減少しているのに対し、桐箱の需要は上がっていると吉田さんは言う。だからこそ、守りに入ることなく、商品展開を増やそうと試みているという。


「繁盛しているからといってそれだけに没頭すると衰退するが、新しいものにチャレンジすることで道が開けていく」。


そんな吉田さんがこれから作りたいと思っているのは、「スニーカーを見せながら保管できるケース」や「ヴィンテージジーンズ用の桐箱」だとか。それはまさに、調湿性にすぐれているといった桐箱の機能面を、若者のライフスタイルの中に最大限に溶け込ませた提案だ。今までに一体誰が、桐箱にスニーカーを入れて飾りながら保管するなどと考えたことがあるだろう。


斬新なアイテムを次々と作るのには、新しいものに挑戦するという目的以外に、「自分の成長の証」の意味もあるそうだ。売れるか売れないかは関係なく、「次は何が売れるか、どんなものにしたら目をつけてくれる人が出るかを考える」のだとか。そしてそのアイディアが形になり商品として完成することで、1年間の自分の成長を感じているという。


次はどんな独創的な桐箱が誕生するのか、ぜひ注目したい。


ACCESS

有限会社よしだ
990-0829 山形県山形市五日町6-9
TEL 023-645-3025 営業時間:AM 9:00 ~ PM 7:00
URL https://www.instagram.com/hako_yoshi/