醤油は、脇役だ。だが醤油によって素材も料理も味が大きく変わるだろう。この店の醤油を味わって、あらためて醤油という調味料の奥深さを感じた。
長い歴史を持つ「松本醤油商店」
多くの観光客でにぎわう“小江戸”川越のメインストリートから1本入ったところに、約250年の歴史を持つ松本醤油商店がある。道に面しているショップには、醤油はもちろん、醤油をベースに開発したドレッシング、せんべいや漬物、ジェラートといった醤油のアイスなど、醤油関連の商品がずらりと並ぶ。この松本醤油商店のおすすめ商品は、「はつかり醤油」。手間ひまかけてつくられるこの醤油は、全国のこだわりの飲食店が指名買いすることでも知られている。
松本醤油商店こだわりの醤油づくりと「はつかり醤油」
「うちは地元産の原料にこだわり、秩父から流れてくる地下水をつかい、昔ながら醤油づくりをしています。生産量は多くありませんが、添加物も使わず、安心・安全な醤油をお届けすることを最優先に考えています」(松本醤油商店・樋口喜久さん)
1764年に豪商・横田五郎兵衛が醤油製造を開始。1889年に初代・松本新次郎がこれを引き継ぎ、松本醤油商店が誕生した。天保元年に建てられたという蔵に入ると、やさしくまろやかな醤油の香りに包まれる。ずらりと並んだ30本の杉桶も蔵と同じ180年モノ。機械生産の醤油は、半年ほどで出荷されるが、ここではじっくり1年かけて熟成。こだわりの「はつかり醤油」はさらに1年再仕込みしてまろやかな風味をつくりあげる。
「うちの醤油はこの蔵と杉桶が命。ここに住みついている酵母菌、乳酸菌がまろやかな味をつくってくれるんです」
おいしい酒を醸す酒蔵がそうであるように、この醤油蔵も古いながら決して“古くさく”はない。もろみを口に含むと、しょっぱさよりも旨味を先に感じる。たとえば同じ魚の刺身でも、この醤油なら格段においしく感じるのは間違いない。この蔵の木桶が元気なうちはこの味を楽しむことができる。そしてなによりこの醤油づくりに思いと技術を全力で注ぐ伝統的な作り方を後世まで伝えていってほしいと思った。そんな松本醤油商店では伝統の醤油蔵の見学も可能となっている。