伊豆半島の自然に囲まれたお宿
静岡県の東部に位置する沼津市は、伊豆半島のちょうど付け根の部分にあたる。日本一高い富士山と、日本一深い駿河湾に囲まれたこの土地は、まさに自然の宝庫。気候が穏やかで、年間の半分以上は晴れるということもあり、観光名所としても有名だ。沼津駅から車で10分ほど進むと、先ほどまで市街地だったとは思えない静かで穏やかな空間が現れる。それが、沼津随一の宿「沼津倶楽部」だ。
1907年、もともとはミツワ石鹸二代目社長・三輪善兵衛が沼津市から約三千坪の土地を借用し、千人茶会を行なえるような美しい建物にとに設計されたことが始まりと言われている。第二次世界大戦中には、将校たちの休息所となった後、戦後は政治家が集まり話し合いの場としても利用された歴史ある建物だ。2006年秋には、老朽化の進んだ建物を改修するとともに、建築家・渡辺明氏の設計による新館宿泊棟が増築され、会員制ゲストハウス「千本松・沼津倶楽部」として再興された。
そんな歴史ある沼津倶楽部だが、その中でも和館は、国の登録有形文化財にも登録され、名匠の技術が魅了する幻想的な空間となっている。屋久杉をはじめとする様々な銘木を組み合わせ、独特の削り痕による美しい模様をつくりあげた「なぐり仕上げ」や、細い板材を編み込んだ「網代天井」「竿縁天井」などの伝統的な手わざによる仕上げにより変化を付けた室内は、まさに匠の技のショールームと呼んでも過言ではない。現在はレストランやライブラリーとして使用されている。
沼津を楽しみ尽くす贅沢なひととき
和館に向き合うように佇む建物は、渡辺明氏の最後の作品としても有名だ。建築の外壁は富士川の砂と土を積み重ねた「版築」という技法を使用し、自然の持つ表情を意匠として取り入れている。また屋根には吉野杉が並べられ、客室のひさしから見える粒揃いの断面に思わず見惚れてしまうほど。こうした随所に点在している匠の技も見逃せない。それぞれの客室は、全8室。2階部分に寝室を配したメゾネットタイプの部屋や、1階に小上りを配した眼前に水盤を望む落ち着きある和室、リビングスペースと独立したベッドスペースを持ち専用の露天風呂が魅力的な洋室スイートなど、バリエーション豊かで、どれも和の伝統とモダンが融合した心地よい空間となっている。
旅の楽しみでもある食事は、「走り・旬・名残」の意識を大切に、栃木産の和牛や沼津港直送の新鮮な魚介など、和食をベースにしたモダンなコースとなっている。歴史的な数寄屋造りの建物のなかで、四季折々のこだわり抜かれた料理の数々に酔いしれたい。宿の近くには、黒松が多くみられる千本松公園や若山牧水の歌碑や井上靖の文学碑などもある。コースマップを片手に、森林浴を兼ねて潮風の中を散策しながら、沼津を愛した文学者の足跡に触れてみるのもお勧めだ。『沼津』という地にまた訪れたくなるような、心も体も癒される極上の宿がそこにある。
