熊本の日本酒、千代の園酒造
熊本県山鹿市。伝統工芸の山鹿灯篭や山鹿温泉で知られるこの街は古くから参勤交代で大名たちが通る豊前街道の宿場町として栄えてきた。そして今もなお、風情ある街並みが残る。訪れたのは明治29年創業の「千代の園酒造」。原料となるお米にこだわり「九州神力(きゅうしゅうしんりき)」という品種まで作り出した熊本有数の酒蔵。戦後、全国初の純米酒を発売したことでも知られている。
米の味わいが感じられる「熊本神力 純米吟醸」
早速、「千代の園酒造」で製造されているお酒を利き酒させていただく。まずは「熊本神力 純米吟醸」。原料の米の味をしっかり感じることができ、多少脂っこい味付けの料理と一緒に飲んでも負けない力強い味わい。次に、中田の生まれ年に近い昭和53年に作られた古酒をいただく。お酒が劣化して味が落ちることを“老ねる(ひねる)”と表現するが、「千代の園酒造」の古酒は年月が経過しても老ねることなく、苦みや渋み、嫌な香りも全然出ていない。
年月と共に味わい深くなる「大古酒」
熊本の旅の途中、放送作家・小山薰堂さんと会うということで、小山さんの生まれ年に近い昭和30年代に作られた約50年物の「大古酒」も特別にご用意いただいた。日本酒で50年物というのは非常に珍しく貴重だ。日本酒も時間の経過と共に色が褐色化し、紹興酒のような色合いに変化する。口に含んで見ると、見た目同様、紹興酒に近い味わいで日本酒だとは分からない。のどごしのよい紹興酒といった感じだ。
「千代の園酒造」は、創業前まで米問屋を営んでいた本田喜久八が酒造りを始めたのがはじまり。もともと米問屋だっただけに豊かな秋の実りを象徴する“米”にこだわり続けてきた。これからも酒文化・食文化の変化に合わせ飲み手の心を豊かにする酒造りを続けてくれるだろう。