秋田かづの牛の歴史
秋田には有名な牛がふたつ。ひとつは黒毛和牛の「秋田錦牛」。そしてもうひとつは今回取材させていただいた日本短角牛の「かづの牛」だ。
かづの牛は南部牛とショートホーン種をかけあわせた品種。鹿角市には長い歴史を持つ尾去沢鉱山がある。かづの牛の祖先となる南部牛は、そういった鉱山で活躍していた役牛だ。足腰が強く、馬では歩けない岩場でも仕事をこなすことができたため、秋田では欠かせない牛だった。
だからもちろん最初は食用としての牛ではなかった。それが転換したのが明治期。さきほども言ったようにショートホーン種と交配して改良を加えて誕生した。正式に「日本短角種」として認定されたのは1957年。日本固有の牛として認められることとなった。
赤身がおいしいヘルシーな肉質のかづの牛
今回おじゃましたのは、秋田県畜産農業協同組合が管理する放牧場。この放牧場には5月から10月まで地元の農家さんから預かった牛が放牧され、のびのびと過ごす。
鹿角支所の木村良一さんに案内してもらうと、トットットとかづの牛が近づいてきた。「人なつこい牛なんですよ」と木村さんは笑う。「こんなふうに放牧すると黒毛和牛はやせてしまうんです」と続けて木村さんは話してくれた。
黒毛和牛などの牛の特徴はたっぷりと入ったサシだ。それに対してかづの牛 最大の特徴はしっかりとひきしまった赤身。黒毛和牛などに比べ脂肪分が少なく低カロリー高タンパクとされる肉質だ。それでいて、しっかりとした風味を残し、噛めば噛むほどに牛肉の旨みが出てくる。そこが人気の秘密。試食をさせてもらうとその旨みはすぐにわかった。脂ではなくまさに「肉」を楽しむという牛肉だ。
「ビタミンも鉄分もほかの牛に比べて豊富なんです」と言う。
「その証拠にかづの牛の肉は空気に触れるとすぐに黒くなるんです。実は、それが消費者の方に、悪くなったのではないかなどうまく伝わらないのも悩みなんですが…」
全国でも希少な品種のかづの牛
日本短角種は秋田のほか、岩手、青森、北海道などで飼育されているが、和牛に占める割合はわずか0.1%といわれている。それは経済的な理由もある、黒毛和牛などの相場のほうが高いので畜産農家としてはどうしてもそちらへ流れることが多いのだ。
それでも木村さんは「消費者の方がこの牛肉を食べたいと言ってくれる以上は守っていかなければいけない」と話す。
「1年間に売れる牛が50頭しかない。それでは、市場には相手にされないのも事実。生産量をあげないと、知名度が先行してもいけません」
かづの牛を飼う農家さんはほとんどが複合農業。このままでは短角牛は食べられなくなってしまうと木村さんは言う。かづの牛は肉本来の旨みを堪能できる牛肉が食べたいという人にはうってつけの牛だ。その声に応えるために地元農家の人々と共に木村さんは日々、牛と向き合っている。