“抗生物質”を一切使わない。ヨーロッパを見習った卵づくり
「卵にもオーガニックがあるなんて知らなかった」と中田が驚くと、「黒富士農場」の向山茂徳さんはこう言った。「たしかにね、ウチを含めて有機で鶏を育てて卵をとってる農場なんて、ごくわずかしかないから」
そうなのだ、オーガニック卵をとるには、オーガニックで鶏を育てなくてはならない。食肉用として太らせるために使う抗生物質を一切使用せず、自然に近い環境で鶏を育てる。大変な仕事である。
黒富士農場は、2002年、世界基準(IFOAM)をもとにオーガニックの養鶏を開始した。「どうして有機で養鶏をしようと思ったんですか?」「海外をいろいろ回ってみるとね、とくにヨーロッパは有機が当たり前なんだよ。日本は薬を使って、見た目、味のいいものを作ろうとする。でも、自然のままでそれができるのが本当のプロなんだよね」中田の問いかけに向山さんは、そう答える。
“鶏の糞”も、環境サイクルのひとつ。環境”全体”で考える「自然農法」
「ただ、それには飼料だけじゃなくて、環境も必要になってくるんだ。森があって、そこから水が来て。でも鶏のところで止まってちゃダメ。鶏の糞をまた肥料とかいろいろなものに使っていく。そうして循環してこそ自然農法なんだよ。」
向山さんが言うとおり、自然環境全体で考えないと有機農法はできない。安全な飼料を食べた家畜の糞が安全な肥料になり、それが土を肥やして作物が丈夫に育ち、その作物を食べて家畜が安全に育つ。まさに循環なのだ。
これからは農業にも個性が必要
そんな熱い話を伺っていると、逆に向山さんから質問が出た。「どうしてここを訪問したの? 農業を入れてくれたのがすごくうれしいんだよね」「この企画で全国を回ってると、土地土地で環境が違うから、文化、芸能はもちろん、農業もいろいろ違うことに気づいたんです。それがすごくおもしろいなと思うんです」と中田。
「たしかにね。とくにこれからは個性がないと、農家も残っていけないから。例えば発酵文化なんて、日本の個性だから。そういうのを伸ばしていけるといいと思うんだ」と、向山さん。
環境とこだわりがストーリーを紡ぎ出す、黒富士農のオーガニック卵。これも、向山さんのいう「個性」なのかもしれない。