「傷に鎌先」といわれる名湯
宮城県南部に位置する鎌先温泉は1428年に開湯し、約600年の歴史を持つ温泉だ。この地で一番古くから湯屋を営む「時音の宿 湯主一條」は、当代で20代目を数える。 一條家の祖先は、戦国の武将・今川義元の食客として仕えていたが、桶狭間の戦いで打ち破れこの地を訪れた際、この温泉に浸かったところ傷が癒えたことから、弓矢を置き、湯小屋を始めた。この由来にあるように、特に外傷への効能があるとされ、「傷に鎌先」 と長年親しまれてきたのだ。
御宿は2つの源泉を有し、「奥羽の薬湯」 として現在も自噴する源泉 「薬湯」 の泉質はナトリウム-塩化物・硫酸塩泉。そして、「艶肌の湯」 として知られる 「洞窟の湯」 は、源泉の温度が約18℃の冷鉱泉。異なる源泉から湧き出る湯を楽しむことができる。
「湯主一條の木造本館」で味わう宮城の逸品
「時音の宿 湯主一條」 を訪れると、誰もが目を奪われるものがある。それは御宿一番の自慢でもある木造4階建の建物「一條本館」。大正から昭和初期にかけて宮大工の手によって建てられた日本建築は、まさに先人たちの知恵と美意識の結晶だ。
御宿に到着するとまずは、森に抱かれた別館へ。温泉を楽しみ、客室ではゆったりと寛ぐ。そしてお食事の時間になると案内係に迎えられて 「時の橋」 を渡り、一條本館の個室料亭へ誘われる。
そんな情緒漂う空間で味わうのは 「森の晩餐」 と名付けられた会席料理。 メインは肉質等級 「5」 を格付けされた “仙台牛” の焼き物、お鍋は地元白石市育ちの “宮城野ポーク” を生のまま仕入れた絶品のしゃぶしゃぶ。そして魚は香り高いカルパッチョに仕立てる。地酒や選りすぐりのワインも舌に嬉しい。
映画の主人公が過ごすように
「お客様は、映画の主人公です。『一條の森』 に迷い込み、素朴な東北のおもてなしに触れ、小さな感動を幾つも体験する。そして、優しい気持ちになって現代へお帰りになる。そういう流れを大切に、お迎えしております」 そう、20代目当主 一條達也さんは語る。 小さな温泉地、伝統ある温泉地だからこそ感じられる安らぎがある。その魅力に惹かれ、幾度も訪れるリピーターも多いという。
宮城県は名所も豊富だ。伊達家や片倉家など武将たちの歴史と文化を探訪し、蔵王や松島といった雄大な自然に触れ、季節ごとに充実した旅のプランが見つかるに違いない。「時音の宿 湯主一條」 は鎌先温泉の地で、その旅をより豊かに演出する。