NIHONMONO「にほん」の「ほんもの」を巡る旅マガジン

日本人本来の美意識を呼び起こす陶芸家・安藤雅信

日本人本来の美意識を呼び起こす陶芸家・安藤雅信

岐阜県多治見市、青々とした木々が生茂る森の中に佇む、築120年を超える数寄屋風建築のギャラリー。それが「ギャルリ百草(ももぐさ)」だ。数寄屋造りとは、安土桃山時代に稀代の茶人・千利休が完成させた「わび茶」の思想を反映した建築様式。室町時代に流行した豪華な書院づくりに対し、質素で慎み深い精神性を表現したスタイルを指す。1998年にオープンした「ギャルリ百草」では、敷居をまたいだ先に、土間や床の間など日本人ならではの「わび・さび」を感じる空間に古道具から骨董、現代美術まで幅広いジャンルの作品が展示されている。そこには、生活空間の親しみやすさと前衛的なギャラリーの緊張感が合わさった唯一無二の空気が流れ、日本国内だけにとどまらず世界からも自然と人々が集まる。「西洋美術の価値観から離れて、美術と工芸の中間にある”間”をこの建物の中で見立てることで、日本人のアイデンティティを問うとともに新しい美術のあり方を提案したいと考えました」と陶芸作家であり、ギャラリストでもある廊主の安藤雅信さんは語る。

安藤さんのルーツはジャズドラマーを目指していた美大生時代。マイルス・デイビスやチャーリー・パーカー、セロニアス・モンク…幾多のジャズミュージシャンのレコードを貪るように聴き、ドラムを叩き、自分なりにジャズを表現しようとした。しかし、聴けば聴くほど、演奏すれば演奏するほど、彼らが生まれながら持つリズム感やグルーヴには達しえないことが見え、限界を感じた。

そこで、彼らでいうジャズが日本人の場合、何に当てはまるのか考えたところ、行き着いたのは焼物と茶道だった。現代の生活様式において茶の文化は一般的なものではなくなっているが、人をもてなすための空間のしつらえや茶のあり方は、ネイティブジャパニーズならではの表現ではないだろうか。また、「工芸」を下、「純粋美術」を頂点とする西洋美術的価値観ではなく、その中間にある「生活」とリンクするものが日本人にとっての美術ではないか。そうした考えを具現化したのが、安藤さんがつくる焼物であり「ギャルリ百草」そのものだった。そして、両者の共通点は、余白があり、使い勝手を使い手の創造力に委ねているところにある。

手仕事で生み出される安藤さんの器は、余分な装飾を省くことで、用途を限定せず、和洋問わず使える。それゆえ、使い手によって全く違う顔を見せることがある。観賞用の美術でも大量生産された工業品でもない、日常生活の中で使うほど気付きのある焼物こそ、日本人ならではの美術という安藤さんの見立てに多くの人が共感した。しかし、それは元来日本人が持っていた潜在的欲求でもある。海外や全国から多くの人が「ギャルリ百草」に足を運ぶのは、現代人が忘れかけている美意識を再起動してくれるからなのだろう。

ACCESS

安藤雅信
岐阜県多治見市東栄町2-8-16
TEL 0572-21-3368
URL https://www.momogusa.jp/