土地にある自然の“色”と“形”を作品に落とし込む染織作家「Snow hand made」/青森県弘前市

沖縄で人生が変わった佐々木亮輔さん・由貴さんの2人が手がけるのは、伝統的な技法を取り入れたデザイン性の高いものばかり。手に取った人が思わず笑顔になるような作品の裏には、二人らしい自然体の生き方があった。

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波照間島の暮らしから得た創作の心と生き方

街並みや文化に城下町の名残がある青森県弘前市は、津軽塗やこぎん刺しなどの伝統工芸が今も根強く残っている。その弘前市に工房を構える「Snow hand made」は、亮輔さん・由貴さん夫婦が分業で制作を行う染織作家だ。

亮輔さんが藍(あい)や紅花(べにばな)を染料にして布や糸を染め、由貴さんが織物やかぎ針編みのアクセサリーを作っていく。手織りとは思えない緻密で繊細なデザインと鮮やかな色合いが人気となり、新作が出るたびに購入する人も多いという。

染料は自家栽培しているものから、近隣の山にある竹、桜の枝などを原料としている。自然モチーフのアクセサリーと相性が良く、流行り物のデザインとは違った魅力がある。長く使ってもらえるもの、というのが2人の創作のコンセプトでもあるそうだ。

「彼女は感性で作っていくんです。その感覚がすごい」「染めは原理が分かっても望んだ色が出ない時もある。でも彼は考えて、その色に近づけるんですよ」と、お互いを称える2人。それぞれの技術を認め合い信頼しているからこそ、ハイクオリティな作品が生まれるのだろう。

導かれるように訪れた沖縄での出会い

神奈川県出身の亮輔さんと弘前市出身の由貴さんが出会ったのは、有人島として日本最南端にある沖縄県波照間島(はてるまじま)。亮輔さんは学生時代に波照間島を訪れた際に人や島の風土に惹かれて移住を決意し、同時期に知り合いを訪ねて来た由貴さんと出会った。

「染物や陶芸の技術を得たいと思っていました。最初に訪れた時に、沖縄の鮮やかな自然をどうにか残せないかと思って道端の花で糸を染めたことがあったんです。それが薄紫色に染まった時に感動したんですよ。『自然の色って残せるんだ』って」と話す亮輔さん。

由貴さんも同様に手に職をつけたいと考えていた時、知り合いを通して紹介してもらったのが、隣の西表島(いりおもてじま)で活動をする染織家・石垣昭子先生だった。石垣先生は、紬糸を用いて織り上げる絹織物、紬織(つむぎおり)の人間国宝・志村ふくみ氏に師事し、西表島の染織文化を掘り起こすため40年以上活動している人だ。

しかし、まったく知識のない2人の指導をすることは難しいと、波照間島にいる原始機(げんしばた)を使える人を紹介されたという。原始機とは、経糸の一端を織り手の腰にまわした「腰あて」につなぎ、腰の力で経糸の張り具合を調整する織物の基本ともいえる織り機だ。

そこで指導を受けたのが、後に一緒に工房を立ち上げる2人だった。その2人に原始機を教わり、学んだことを忘れないよう自宅でも織り続け、織ったものは石垣先生の工房へ持ち込むことも。そこから課題を与えられたり、4人で先生の工房に住みこみで学ぶなど、必死にくらいついていった。

中でも織りの技術は由貴さんが抜きん出ており、突出した才能を見せたという。

「子どもの頃から編み物や絵を描くのが好きだったんです。その影響もあると思いますが、沖縄に来て変わったのが大きいです。沖縄ではみんなが私の作ったものに興味を持ってくれたり、認めてくれた事が自信にもつながったのかもしれません」。由貴さんの創作は、沖縄で自分らしい生き方を知り、それを少しずつ積み重ねて今につながっているという。

また、石垣先生からは、技術を磨くこと以上に「染織は工芸品ではない」という、ものづくりの原点ともいえるものを学ぶ。先生自身が糸から染め、織った生地を手ぬぐいにしているそうで、生活の一部だという意識を大事にしているそう。工芸品として残すことも必要な取り組みではあるが、“暮らしの中から生まれたもの”であることを学ぶ大切な時期だったと話す。

工房立ち上げから独立。弘前で2人らしい創作を

石垣先生の後押しもあり、2008年には4人で染織工房も立ち上げた。そこは食堂も兼ねていたのだが、こだわりの食材や手の込んだ仕出しが評判となり染織との両立が難しくなってきた。仲間とも話し合った結果、染織作家としてさらに本腰を入れたいと、亮輔さんと由貴さんは工房から独立することを決意。そこで選んだのが弘前市だったのだ。

「妻の故郷なので馴染みがあったことと、やはり工芸品が多い土地なことも決め手です。正直、弘前以外の選択肢はなかったかもしれません」と2人は笑う。

飛行機は使わず、あえて鹿児島から弘前市まで車で北上することに。各地の知り合いを訪ねつつ、自分達の感性も磨きたいと、世界遺産などにも立ち寄りその土地の違いを感じ取っていった。土地が変われば気候や風土も変化する。ものづくりは土地と自分に合ったものを取り入れることも石垣先生からの教えだった。

その言葉を受け、自分らしく、その土地だからこそ生まれる作品づくりをしたいという想いで弘前へ向かい、Snow hand madeが誕生した。

手間を惜しまず、素材の特性を生かす技法

「藍染めは色落ちや色移りがしやすいと思う人も多いですが、本来はそうじゃないんです。そこを追求したら、昔のやり方に落ち着きました」

Snow hand madeの藍染めは、地獄建て・正藍染(しょうあいぞめ)という室町時代に確立された技法。藍の葉を乾燥させた後、そこに水を打ちながら2〜3カ月かけて発酵、切り返しをしながら土(堆肥状)にし、天日干しすると蒅(すくも)という藍染めの原料が出来上がる。出来上がった蒅は、りんごの木灰からできた灰汁でよく練っていく。この木灰は近隣のリンゴ畑で剪定・伐採した枝で、冬の薪ストーブで燃やして灰にして保管している。熱湯を入れて撹拌した後、上澄みだけを取った灰汁だ。残った木灰は釉薬としても活用できるため、知り合いの焼物屋に譲っているそうだ。

「この循環がやりたかったんです。全く無駄がない」と、亮輔さんは嬉しそうに話す。

藍染めの中でも重要になるのが、藍建て(あいだて)といわれる染液をつくる工程だ。藍甕(あいがめ)に蒅と灰汁を入れて、10日ほどかけて少しずつ嵩(かさ)を上げて発酵させて染液をつくっていくのだが、水を大量に使うことと、水と藍の相性が悪いと藍が建ちづらいこともあるという。そのため、弘前で物件を探す際も井戸水が使える場所が第一条件だった。現在の場所は湧水が豊富で、藍との相性も良く、土地の運にも恵まれているようだ。

染液が完成し、ようやく藍染めの工程になる。灰汁に漬けた生地を空気を入れないようにそっと藍甕の中に浸していく。染めたものは水で洗い、天日干しにして再度洗う。この工程が1セットとなり、目当ての色が出来るまで繰り返していく。最後はよく天日で焼き、灰汁の雑味を抜いて完成だ。

藍は自家栽培もしているため、種まきから刈り取り、天日干しの作業も含めると1年以上。現在は日本で高い生産量を誇る徳島の蒅・阿波藍(あわあい)もブレンドしているが、将来的には弘前藍だけで染めるのが夢だという。2人だけで作業しているため規模を広げることは簡単ではないが、いつか実現したいと試行錯誤中だ。

ここまで手間をかけるのは、藍の効能を最大限に引き出したいという想いからだ。本来の藍染めは色褪せも色落ちもしにくく消臭・抗菌効果も高い。時間はかかるが、藍本来の良さを引き出す一番の技法だと考えているそうだ。

デザインのインスピレーションは自然

染めた糸は由貴さんの手で形作られていく。かぎ針編みの他、原始機(げんしばた)と呼ばれる機織り機(はたおりき)を使い、ストラップや紐を織り上げる。波照間島時代から使用しているもので、糸の一端を織手の腰につなぎ、腰の力で糸の張り具合を調整しながら織っていく原始的ともいえる機(はた)だ。

モチーフは、自然。沖縄にいた頃から島の人達がお守りとして島の素材で作ったアクセサリーを付けていたことが印象的で、自分の作品づくりにも大きく影響しているという。顕微鏡で見るミクロの世界や宇宙など、自然にできたものが規則正しく並んでいたり、美しいと思えるような世界観を作品に落とし込んでいる。だからこそ、由貴さんのデザインは手仕事とは思えないような緻密な美しさがある。

染めも織りも、すべて身の回りにあるものから出来上がっている。これがSnow hand madeの作品づくりの原点ともいえる。

良いものを取り入れながら自分達らしく

伝統的な技法で作品づくりをする2人だが、昔の技法だけにこだわっているわけではない。現代の技術を用いた染めも取り入れ、自分達がイメージする作品づくりに生かしている。

「いいとこ取りをしている感じです。それぞれの良さを生かして、植物が持っている本来の持ち味を生かすのが一番ですね」と話す亮輔さん。技法も材料も、概念にとらわれず、良いと思ったものを取り入れている。自然体でいることこそ2人にとって重要なのかもしれない。

「これからのひとつの目標としては、ここで採れた藍だけで染めたい。ここの土と水と空気で育った唯一無二の作品づくりをするために、どういったシステムを組むか考え中です」と話す亮輔さんに、「売り物以外の作品も手がけたいです。以前広いスペースを借りて大きな作品を展示したんですが、自分達が表現したいものを好きなように作って本当に楽しかった。初心を思い出すことができたので、そういった展示もしていきたいですね」と笑顔の由貴さん。伝統技法に気負うことなく、生活の一部として創作に向き合う2人。Snow hand madeの作品には2人の生き方そのものが表れている。

ACCESS

Snow hand made
青森県弘前市狼森地区
TEL 非公開
URL https://www.snowhandmade.net/
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