幸せのご縁を結ぶ神社「出雲大社」/島根県出雲市

「古事記」「日本書紀」に登場する、日本を代表する古社・出雲大社。国づくりの神・大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)を祀(まつ)るこの神社は、旧暦10月に全国の神々が集まる「神在月(かみありづき)」の地としても知られている。神々が人々の「ご縁」について話し合うと伝えられるこの地には、今も年間約200万人の参拝者が訪れる。人々が足を運ぶのはなぜだろうか。

目次

国づくりの神話が語り継がれる、日本屈指の古社

出雲大社の起源は「国譲り(くにゆずり)神話」にさかのぼる。出雲の国を築いた大国主大神は、神々の住まう世界とされる「高天原(たかまがはら)」の天照大神(あまてらすおおみかみ)の使者から、国を譲るよう求められ、最終的にその申し出を受け入れた。その際、自らを祀るための壮大な神殿を建てることを条件として示したと伝えられている。この神殿こそが、出雲大社のはじまりだ。

「むすびの神」として広がった信仰

出雲大社といえば、「縁結び」の神社として知られている。恋愛成就のイメージを持つ人も多いが、祀られている大国主大神は、もともと人々の暮らしを支える神として信仰されてきた存在だ。

「大国主大神は、農業や医療など、人々の生活そのものを支える神様なんです」と語るのは、出雲観光協会 元事務局長の小野篤彦さん。

生活に関わるさまざまな分野を守る神として崇められ、その信仰の広がりの中で、人と人、物事を結びつける「むすびの神」としての特性が強く意識されるようになったという。

境内には家族や友人、一人旅の参拝者まで、さまざまな人が行き交い、手を合わせている。恋愛だけではなく、人生の節目や新たな出会い、日々のつながりを願って足を運ぶ人も少なくない。出雲大社の「ご縁」とは、暮らしそのものに寄り添う祈りなのだろう。

日本最古の神社建築「大社造」の堂々たる佇まい

出雲大社の本殿は、日本最古の社殿様式とされる「大社造(たいしゃづくり)」。高さ約24メートルの大規模な高床式建築で、屋根の三角形が正面から見える「切妻・妻入り」の端正な姿が特徴だ。

塗料や彩色を施さない「素木(しらき)造」の柱と、厚く重なる「檜皮(ひわだ)葺き」の屋根が、古代建築の力強さを今に伝えている。

日本最大級の大しめ縄と、圧倒的な存在感を放つ神楽殿

御祈祷や結婚式、奉納などが行われる神楽殿も、出雲大社を象徴する建物の一つだ。1981年に建て替えられた際、270畳にも及ぶ大広間へと拡張。その規模にあわせて掲げられたのが、日本最大級の大しめ縄だった。

長さ約13.6メートル、重さ約5.2トン。拝殿のしめ縄(長さ約6.5メートル、重さ約1トン)と比べると、その規模の違いは一目瞭然だ。一般的に考えれば、メインである拝殿のしめ縄より大きいものを掲げていることに違和感を覚えるが、じつは神楽殿は、明治期に出雲大社教の神殿として本殿とは別に大国主大神を祀ったことに始まる建物で、本殿とは成り立ちが異なる。神楽殿として独立した社殿だからこそ、その規模にふさわしい大しめ縄が掲げられているのだ。実際に目の前に立つと、その巨大さは想像以上。参拝者たちは思わず足を止め、見上げながら写真を収めていく。

しめ縄は、神が宿る神聖な場所を示すとともに、日常の世界との境界を表す結界でもある。

他の神社では見られないユニークな特徴

出雲大社は他の神社とは異なる独自の習わしがいくつも残っている。
まず神様が鎮座する「御神座(ごしんざ)」が西を向いていること。一般的な神社では、太陽が昇る「東」または陽の光が当たる「南」を向いて建てられることが多い。西向きの理由については、「西から訪れる神を迎えるため」「夕日の方向を意識した」など諸説あるが、確かな答えはない。また、しめ縄にも特徴がある。一般的な神社では左側が太くなる形で綯(な)われるが、出雲大社では「綯い始めの太い方を右」に配している。これにも明確な理由は分かっていない。こうした謎の多さもまた、出雲大社の魅力の一つといえるだろう。
さらに、神を祀る儀式「祭祀(さいし)」は、「出雲国造家(千家家・北島家)」が代々担い、国譲り神話に由来するこの伝統により、本殿は特別な聖域とされているのだ。

古代には“高さ約48メートルの巨大神殿”があった?

現在の本殿は1744年(江戸時代中期)に造営されたもの。だが古代には、現存建物の約2倍となる高さ約48メートルの雄大な社殿が存在したと伝えられている。それを裏付けるかのように、2000年から2001年にかけて境内から三本の巨木を束ねた直径約3メートルの柱が三カ所から出土した。巨大建築を支えるための柱だったと考えられている。

さらに、伝承の中には高さ約96メートルに及んだという説も残る。背後にそびえる八雲山(やくもやま)に相当する高さであり、もしそうであったなら、古代の人々が見上げた神殿は、空へと伸びる塔のようだったのかもしれない。

次の遷宮に向け、信仰を未来へつなぐ

出雲大社では、社殿の造営・修繕に伴い御神体を仮殿または新しい社殿へ移す「遷宮(せんぐう)」が約60年に一度行われる。2008年から2019年にかけて行われた「平成の大遷宮」では、本殿や摂社(せっしゃ)・末社(まっしゃ)の修造が行われ、2013年には御神体を本殿に戻す遷座祭(せんざさい)が執り行われた。約1万本の国産ヒノキを用い、広大な檜皮葺き屋根も葺き替えられた。

また、次の遷宮を見据え、中国山地に新たな植林も実施。使える木になるまでには100年以上かかるため、植えた人がその木を使うことはほとんどない。

60年という節目は、人の一生にも重なる年月。遷宮では、時代に合わせて技術や方法を変えながらも、祈りの本質を次世代へ受け継いできた。社殿が新しく生まれ変わることで、地域全体にも新たな活気がもたらされると考えられている。

神の存在をふと感じる

「神話とか本では、神様が人間と同じ形で描かれていますよね。でも本来は、目に見えないものを感じることなんじゃないかと思うんです」。小野さんは、平成の大遷宮で体験した出来事を振り返る。

2013年の遷座祭の日。激しい雨が降っていたという。ところが神事が始まると、雨はぴたりとやんだ。そして神事が終わった瞬間、再び大粒の雨が降り始めた。
「偶然かもしれません。でも、そういう体験をすると『ああ、何かあるのかもしれないな』と思うんですよ」。

出雲大社には、古くから多くの人が祈りを捧げ、信仰を受け継いできた歴史がある。境内に漂う神聖な雰囲気もまた、人々がこの場所に思いを寄せる理由の一つなのだろう。

日常に感謝し、心豊かな人生を願う

「出雲大社に訪れる方々が信じる宗教はさまざま。でも、根本の考え方はみんな同じなんです」と小野さんは語る。

神社で大切にされてきた神道(しんとう)は、長い歴史の中で仏教や儒教(じゅきょう)などの思想と関わりながら発展してきた。他宗教に寛容で、土地や人々のつながりを大切にする信仰として、今も暮らしの中に息づいている。

参道には厳かな空気が漂い、早朝から夕方まで手を合わせる人の姿が絶えない。

人と人のつながり、自然の恵み、そして今ここに生きていること。出雲大社は、そんな日常の尊さを思い出させてくれる場所なのかもしれない。

厳かな雰囲気の中、神殿に手を合わせると、不思議と心が落ち着く。

だからこそ人々はこの地を訪れ、目に見えない「ご縁」に思いを重ねながら手を合わせるのだろう。

ACCESS

出雲大社
島根県出雲市大社町杵築東195
TEL 0853-53-3100
URL https://izumooyashiro.or.jp/
  • URLをコピーしました!
目次