鍛えた鉄に、暮らしの美を宿す。「鍛冶工房弘光」11代目・小藤宗相さん/島根県安来市

日本古来の製鉄法「たたら製鉄」の文化が色濃く残る島根県東部。安来市広瀬町には、江戸時代後期から続く鍛冶工房がある。刀剣鍛錬の技を礎に、いま手がけるのは花器やフライパンなど現代の暮らしに寄り添う道具。11代目・小藤宗相(ことうしゅうすけ)さんは、冷たいはずの鉄に温もりが宿る理由を、手仕事を通じて示し続けている。

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たたらの系譜を引く、安来の鍛冶

古くから日本有数の鉄の産地として知られてきた島根県。砂鉄と木炭から鉄を生み出す「たたら製鉄」は、今なお国の選定保存技術として守られている。江戸時代に最盛期を迎えたこの技術は、日本刀の材料である「玉鋼(たまはがね)」を生み出す唯一の製法として知られ、中国山地一帯を中心に発展を遂げた。

鍛冶工房弘光のルーツは江戸時代後期。初代から三代目は、たたら製鉄に携わる「たたら師」として活動。その後の時代の変化のなかで打刃物や農具、日本刀鍛錬へと仕事のかたちを変えながら、10代にわたって鍛冶の火を守ってきた。

かつては包丁や農耕具の製造・修理を担い、地域の暮らしに欠かせない存在だった鍛冶職人。しかし戦後、機械化や大量生産が進み、農具や刃物を「修理しながら長く使う」といった暮らしは少しずつ姿を消していく。安価な製品が手軽に手に入るようになり、各地の鍛冶屋は減少。製鉄の仕事を続けるだけでも難しい時代になった。そんな中でも鍛冶工房弘光は、時代に合った鉄工芸品をつくり続け、その伝統を現代に伝えている。

作品を届ける喜びを知り、鉄工芸の道へ

鍛冶工房弘光11代目の小藤宗相さん。最初から一直線に鍛冶の道へ進んだわけではなく、大学卒業後は東京の企業に勤務し、その後は島根県内の美術館でも働いていた。鍛冶の道へ進む転機となったのは、家業の展示会を手伝った時のこと。来場者と直接言葉を交わし、自分たちが手掛けた品が誰かの日常へ渡っていく瞬間に触れるうち、つくる喜びだけでなく、使い手へ届く喜びの大きさを実感した。「いつかは継がなければ」とぼんやり考えていた家業が、自分の仕事として輪郭を持ちはじめた瞬間だったと語る。

細部まで手仕事にこだわり、鉄に温もりを宿す

現在の工房には、10代目の父・洋也さんを含め、4人の職人が立つ。手掛けているのは、刀剣鍛錬の技法を生かした燭台、花器、行灯、火廻り品といった工芸品。日本刀づくりと同じように、鉄を高温で熱し、鎚(つち)で何度も打ちながら不純物を取り除き、強度と粘りを引き出していく。わずかな温度差や打つ力の加減によって表情が変わるため、職人は炎の色や鉄の状態を見極めながら作業を進める。つくるものは変わっても、鉄を打ち鍛え、用の美へと昇華させる仕事は初代から変わっていない。

受け継がれる伝統の鉄加工「鍛造」

彼らのものづくりの核にあるのは、木炭の火で鉄を熱し、鎚(つち)で打って成形する昔ながらの加工法「鍛造(たんぞう)」。鉄を液体化して型に流し込む鋳造(ちゅうぞう)、圧力をかけて成形する機械加工などが一般化している今、「鍛造」は手間がかかり、大量生産には向かない。しかし打ち鍛えることで強度と粘りが増し、打ち目や揺らぎによって一点一点の表情を豊かに表現できる。

鉄の状態は肌感覚で見極める


鉄は、熱したばかりの柔らかいうちしか動かない。作業できるのは、およそ800〜1000℃の間。熱しすぎれば鉄が溶けてしまい、熱する時間が短ければ叩いても成形できない。だから何度も炉に入れ、何度も引き出し、叩き、また熱する。その反復作業を繰り返す。

熱している間は、次はどこを叩き、どう曲げるかをイメージする。長年培った感覚をもとに、鉄の状態を見極める。引き上げるタイミングは最も重要で、職人の経験が試される局面だという。

唯一無二の品に仕上がる、手仕事のおもしろさ

伝統の鉄加工「鍛造」によって作られた品は、ひとつとして同じものが存在しない。しなやかな鉄の輪が印象的な「置き風鈴」は、 鉄の厚みや曲線のわずかな違いによって、同じ品であってもそれぞれ異なる響きを持つ。手仕事ならではの微細な揺らぎが音色に個性を与え、均一な工業製品にはない豊かな表情を生み出している。 

「鍛月(たんげつ)」と名付けられた鉄のフライパン。熱伝導に優れた鉄の性質を生かし、食材の中をふっくらと、表面は香ばしく焼き上げる。薬品などによる錆止めなどの処理を施さず、使い込むほどに変化する鉄の表情を楽しめる設計。鍛えることで生み出される凹凸の模様がかすかに残り、そのまま鉄の表情となって現れる。

売る力もまた、手仕事の一部

11代目の役割は、ものづくりだけではない。工房に併設されたギャラリーでは、実際に作品を手に取った来訪者との会話から、新たな受注や制作が始まることも多いという。顧客と対話を重ねながら、求められている用途や空間を読み取り、デッサンを起こして提案。異業種で培った視点は、作品の売り方だけでなく、ものづくりそのものにも生きている。 

また県外、都内の百貨店やギャラリーでも月に1〜2回ほど展示販売を実施しているほか、近年はパリで開かれる見本市「メゾン・エ・オブジェ」をはじめ、海外への出展も重ねている。鉄の工芸品は、木工やガラスのように一見して親しみやすい素材ではないかもしれない。それでも繰り返し足を運ぶリピーターやコレクターが少なくないのは、手仕事作品そのものの力に加え、使い手との関係を丁寧に育ててきたからだろう。

11代目が描く、鍛冶工房弘光の未来

宗相さんが次に見据えているのが、炭焼きへの挑戦。鍛冶に欠かせない炭は、原材料や加熱の持続力によって品質がさまざま。自ら炭を焼くことで、良質な炭を安定して確保しつつ、素材の源流からものづくりを完結させたいという意志がある。宗相さんの飽くなき探究心が、鍛冶工房をまた新たなステージへ押し上げようとしている。

ACCESS

鍛冶工房弘光
島根県安来市広瀬町布部1168-8
TEL 0854-36-0026
URL https://kaji-hiromitsu.com/
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