青森県北西部に位置する十三湖(じゅうさんこ)に生息し、「黒いダイヤモンド」とも称される「十三湖産大和しじみ」。代々続くシジミ漁師の家に生まれ、現在は十三漁業協同組合の組合長を務める梶浦武也さん。自然との共生とこれからのシジミ漁に対する想いとは。
最適な環境で育まれるヤマトシジミ

青森県津軽半島の日本海側に面する「十三湖」は海水と淡水が混じり合う汽水湖。世界自然遺産・白神山地を源流とする、一級河川の岩木川が流れ込み、周囲31.4km、水深は深いところでも3mにも満たない一面遠浅の湖だ。
鎌倉から室町にわたる中世の時代は「十三湊(とさみなと)」と呼ばれ、奥州の藤原家の流れをくむ豪族、安倍・安東一族が拠点とし、居城であった福島城や唐川城の跡が周辺に残る。のちの藩政時代(江戸時代)から明治時代には海上交通において、北前船が往来する主要な港として、新潟や大阪からの船が行き交い、主に木材の積出港として賑わいをみせた。
栄養と旨みがたっぷりつまった黒いダイヤモンド

日本で穫れるシジミには、ヤマトシジミ、セタシジミ、マシジミの3種類があり、この十三湖で獲れるのは「ヤマトシジミ」だ。琵琶湖固有のセタシジミや、川にすむマシジミが淡水で育つのに対し、ヤマトシジミは川の水と海水が混ざり合う「汽水域」にすむ唯一の種。3種のなかでも殻に厚みがあり、ふっくらと丸みを帯びているのが特徴だ。
また、同種は国内で獲れるシジミの9割以上を占め、私たちが普段口にするシジミのほとんどがこのヤマトシジミだ。汽水域で育つことで旨味成分のアラニンが多く作られるといわれ、汁物にすると濃い出汁が出るのも魅力。
青森県では、プランクトン豊富な日本海の海水とミネラルを含んだ淡水が混ざった水質と、シジミの生息に適した泥質の湖底を有する十三湖と同県上北郡にある小川原湖(おがわらこ)が主な漁場となっており、漁獲量全国2位を誇る同県に於いて、ほとんどがこの二箇所で獲られるもの。
「十三湖のシジミの旬は年に2回。土用の丑の頃である7〜8月は産卵時期に入るため身が肥え、ぷりっとした食感が魅力です。もう一つの旬は、1〜2月の厳冬期。この時期のシジミは『寒しじみ』と呼ばれ、冬眠している間、身が引き締まり、夏に蓄えた養分が旨みとして凝縮されます。季節によって食感や味わいに違いが見られるんですよ」と話すのは梶浦武也さん。代々続くシジミ漁師の家に生まれ、現在は十三漁業協同組合の組合長を務める。

肝臓の働きを助けるオルニチン、疲労回復に効果のあるタウリンなどが豊富に含まれ、栄養価が高い食材として古くから重宝されてきたシジミ。そのなかでも十三湖産のシジミは、栄養豊富な汽水域であることから、しっかりとした身と濃厚なコクのある旨みが特徴で、アミノ酸が特に高い。そのため、汁物にしたときの出汁は濃い青白で、身も食べ応えがあり、地元ではしじみ汁やしじみラーメン、バター炒めなどの料理で親しまれている。
シジミと自然を守るための独自ルール

十三湖の豊かな自然の恵みによって育まれるシジミ。昭和40年代、漁船の動力化による乱獲で漁獲量が激減した教訓から、同漁協では昭和58年に資源管理を開始。以来、資源保護と環境保全のための厳正なルールを独自に設け、時代に合わせて見直しを重ねてきた。
シジミの漁が可能となるのは漁業権を持つ漁師約160人のみで、それぞれが振り分けられた漁場を持つ。権利は家族で引き継がれることが多く、後継者が不在の場合は漁協へ返納され、新たな就業者へと渡る。
産卵時期を除き、一年を通して漁が行われるが、船での漁は4〜10月にかけて。冬は湖面が結氷するため、ポイントまで歩いていき、チェーンソーで氷を切り出してから漁をするのだそう。
朝7時になると一斉に船がスタートし、午前11時には終了となる。水揚げ量も船一隻あたり一日140キロまでと決められているのだ。
先を見据えた道具選び
十三湖のシジミ漁は「ジョレン」という道具を使って行われる。ジョレンとは入り口に複数の爪が付いた金属製のカゴで、湖の底に潜っているシジミを爪で掘り起こす。カゴのサイズも統一され、網目の幅は4分(およそ12mm)。カゴをゆすると砂利や泥とともに、網目よりも小さな貝が落ちることで、獲り過ぎを防ぎ、小さなシジミを湖底に残しておくことを目的としている。
<h2>漁師一人ひとりの丁寧な仕事によってもたらされるブランド品質

規定量に達すると、岸へ戻り、作業場での選別作業が続く。
漁師それぞれが持つ作業場に運び込まれたシジミは井戸水で水洗いし、石やゴミ、空殻だけでなく、形や色の悪い貝を取り除いたあと、残った貝を手ですくい、手から手へ貝をパラパラと落としていく。その一瞬のうちに、手に持った重さと、乾いた音や鈴のような高い音、といった音の違いを聞き分けて、中身の入っていないものをさらに仕分けしていくのだ。
基準を満たしたものは、ふるいで大中小のサイズに分け、10kg単位でネット詰めし、荷さばき施設へと集められ出荷となる。
細かく集中力が必要な作業ではあるが、漁協全体で徹底して取り組まれている選別方法。漁師一人ひとりが、手の感覚と、目と耳を使い、手作業で丁寧な仕分けを行うことで、他産地との差別化とブランド力につながっている。
自然の恵みに感謝し後世へとつなぐ

荷さばき施設に集まる漁師の年代は幅広く、30〜40代も多い。梶浦さんの息子である優太郎さんもシジミ漁師として3年目を迎えた。
「この地域も若い人がどんどん離れてしまい、厳しい状況ではありますが、そんな中でも家族と一緒に同じ仕事ができるのはとても嬉しいことです。今後も若い漁師のみんなが安定した収入を得られるよう、十三湖のシジミとシジミにとって良好な環境を後世へ残せるような取り組みを続けていきたいです」と梶浦さん。
約150年間にもわたって獲り続けてきた十三湖のシジミは、資源保護と伝統的漁法を守るなどいう梶浦さん達の取り組みが評価され、2016年に農林水産省の「地理的表示(GI)保護制度」に登録された。産地の特性が品質と結びついた産品を、国が知的財産として守る制度だ。さらにそれに先立つ2009年には、資源管理に積極的に取り組み、持続的な漁業を行う産地を認証する「マリン・エコラベル・ジャパン」を、全国で2番目に取得している。こうしたことから「十三湖産大和しじみ」としてブランド化されている。
「ミネラルが豊富で、日本一おいしいシジミだよ」と漁師さん達はみんな胸を張ってそう話す。そのシジミの味は、炒めても煮物にしてもぷりぷりっとした食感で、泥臭さがなく、深いコクと旨みが強いのが特徴だ。また、お吸い物にすると白濁した濃い出汁が出て、旨みがずっと後を引くおいしさなのだ。
この十三湖ならではのシジミを確かな品質として、次の世代へしっかり受け継がれていくようにしたいというのが梶浦さん達の想いなのである。
丁寧な仕事と未来を見据えた環境への取り組みを怠ることなく、想いは次の世代へしっかりと受け継がれている。十三湖産のシジミは確かな品質として、これからも消費者のもとへと届けられる。



