古来より日本人の身近にあり、縄文時代から日本で生育していたと言われる竹。竹林の美しさはもちろん、たけのこは春の味覚の代表格としても愛されている。栃木県宇都宮市にある広大な竹農場である「若竹の杜 若山農場」は、竹の栽培だけでなく、ロケ地や観光地としても開放し竹の魅力を発信している。
100年以上続く農場を、観光地として活用

24ヘクタール、東京ドーム約5個分に相当する広大な敷地に栗園と竹林が広がる「若竹の杜 若山農場」。宇都宮郊外に位置するここは、100年以上昔からたけのこと栗の栽培を続けてきた歴史ある農場だ。
農場としてたけのこと栗の栽培を続けながらも、2017年からは一般客にも開放。見渡す限り一面に広がる美しい竹林の風景を楽しめる観光地としても注目されている。
また、「るろうに剣心」や「キングダム」などの大ヒット映画やドラマ、著名なアーティストのミュージックビデオ撮影のロケ地にも使われ、聖地巡礼と称して遠方から訪れるファンも多い。農場を運営するのは、株式会社ワカヤマファーム代表取締役の若山太郎さん。若山さんは若山農場の三代目として、竹の魅力の発信に尽力し続けている。
有名映画のロケ地としても注目
若山さんの祖先がこの土地に移り住んだのは、1670年代ごろ。そこから350年以上農家として土地と自然に向き合ってきた。若山さんの祖父の代で、竹と栗の農家としての歩みがはじまり、研究熱心な父の代では、竹の品種改良などより、より竹と栗に重きを置いた農場となっていった。
若山さんの代には、2013年発売の椎名林檎の「いろはいほへと」のミュージックビデオや、2014年公開の映画「るろうに剣心 伝説の最期編」に、ロケ地として協力をしたことをきっかけに、農場の知名度は急速に上がっていった。手入れの行き届いた美しく広大な竹林の数は多くない現代で、神秘的で雄大、非日常の風景を演出する場として最適だったのかもしれない。話題と評判はすぐに広まり、この後も数々の映画やドラマ、MVやCMなどのロケ地として利用が相次いだ。
かねてから「この美しい竹林の魅力をより多く人に知ってもらいたい」という思いを持っていた若山さんは、自身の思いと、ロケ地として使われた場所を見たいと願うファンからの公開を望む声を受け、2017年2月には観光地としての一般公開をスタートさせた。
2019年には大ヒット映画「キングダム」のロケ地としても利用されるなど、さらなる注目と話題を獲得。観光客は年々増え続け、2024年時点では年間9万人が訪れるように。圧巻の竹林をのんびりと散策できるほか、竹林の中の茶屋で、竹器で抹茶とお菓子を楽しんだり、ブランコに乗ったりもできる。たけのこ狩りや竹工作体験も受付、夜はライトアップされた幻想的な竹林を歩くことも。
また、受付に隣接する建物内には、竹についての解説や伝統工芸品である竹工芸の作品展示もあり、大人から子どもまで楽しめる施設となっている。
大きく、早く繁殖する「竹」

日本で生育する竹、正確にはタケ類と呼ばれるものは20種類ほど。竹は「木」ではなく、「イネ科」に分類されている。2ヶ月で最大20m伸びることもあるほど、成長が早く繁殖力も強い。
地上に生えている木で言う「幹(みき)」の部分は「稈(かん)」と呼ばれ、10年程度で枯れてしまう。しかし地下に網目状に張り巡らせた根(地下茎)が次々とたけのこを生やし、新たな竹として地上で大きく育ってゆく。
若山さんによれば、こういった地下茎によって繁殖するのは、中国や日本など東アジアを中心とした竹の特徴で、それにより「竹林」ができるという。
オリジナルの品種は、都市における植栽への活用も
若竹の杜 若山農場には約10万本もの竹が生育し、日本を代表する竹であり、日本の竹の中では最大の大きさに成長する「孟宗竹(もうそうちく)」を中心に、日本で古来から自生していた「真竹(まだけ)」や節が交互膨れて亀の甲羅のような模様になる「亀甲竹(きっこうちく)、稈が美しい黄金色になる「金明孟宗竹(きんめいもうそうちく)」、「淡竹(はちく)」など約15種類ほどを栽培している。
また、植栽用の品種の栽培・販売も国内で唯一専門に行っていると言い、若山さんの父の品種改良の結果生まれた「曙孟宗竹(あけぼのもうそうちく)」や「姫曙孟宗竹(ひめあけぼのもうそうちく)」は若竹の杜 若山農場オリジナルの品種。特に「姫曙孟宗竹」は最大でも高さは9mほどで、植栽にも適しており、首都圏など敷地の限られた施設に美しい竹の風景を作り出すことを可能にした。
「食」としても魅力も発信
若竹の杜 若山農場の竹は見るだけのものではない。三代100年以上に渡って作り続けてきたたけのこや栗は市場での販売のほか、旅館やレストランなどのプロからも評価が高い。
「農業とは土づくりに在り」の言葉を信条に、化学肥料に極力頼らない自然循環農法を取り入れている。また関東の土である「黒ボク土」は、有機物が集積した黒い色の土。保水性や親水性も高く、ふかふかした感触で有機物が蓄積しやすいため、栄養価が高いたけのこが出来上がるという。
たけのこや栗の加工品も、農場のショップ内やオンラインで販売しており、2023年には敷地内にカフェ&レストランをオープンし、自分たちのたけのこや栗だけでなく、地元の食材の旬の食材をふんだんに使った料理を提供している。
サスティナブルな竹の魅力を、もっと伝えていく

竹の魅力発信に大成功しているように見える若竹の杜 若山農場だが、若山さん曰く「竹の良さを理解してもらうためには、まだまだ一歩一歩頑張っていかないと」とのこと。
なぜなら、近年全国各地で放置された竹林が問題になっていて、繁殖力の高い竹が山に生えた木々を侵食し枯らしてしまうことなどから「竹害」とも呼ばれ、マイナスなイメージもある。「昔はどこでも春になるとたけのこ掘りをしたが、今は取らないから、どんどん増えてしまう」と若山さん。
しかし実際は、地面に薄いゴムのシートを入れるだけで、地下茎が無作為に伸びてしまうことを簡単に防ぐことができるという。周囲の木々に悪い影響を及ぼすことなく植栽としても活用できるのだ。またSDGsにおける「脱プラスチック」の観点でも耐久性に優れ、さらに抗菌効果もあるため、皿やスプーンなどへの活用も進む。

若竹の杜 若山農場でも、竹林の中の茶屋で提供する抹茶を入れる竹器は、持ち帰って自宅で再利用してもらえるように、という計らいも。
真の意味で「竹の魅力を伝える」ということは、良い面を伝えるだけでなく、ネガティブなイメージの解消や起こっている課題を1つ1つ解決していくことも必要不可欠なのだろう。
大変な道のりにも思えるが、「竹に関する食も文化も多くの人に知ってもらって、有効的に活用してもらいたいです。少しでも竹の魅力を伝えて、もう一度竹と人が共存できるようにしたい」と話す若山さんの声は力強く前向きだ。
「竹」という新たな魅力の発信者としての活動は、これからも続いてゆく。