竹林を守りながら育む、北九州が誇る高級たけのこ。「合馬たけのこ体験園」/福岡県北九州市

福岡県北九州市の名物として有名な「合馬(おうま)のたけのこ」。アクが少なくやわらかな食感と上品な味わいが特長で、京都や大阪の料亭から指名されるほどの高級たけのこだ。約2,000坪の竹林が広がる「合馬たけのこ体験園」で、たけのこを生み出す豊かな土壌づくりや生産者の思いに迫った。

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北九州の春の味覚、「合馬のたけのこ」

福岡県の北東部に位置する北九州市は、竹林面積が約1,900ヘクタール、東京ドームおよそ400個がそのまま入ってしまうほど。これは、国内でもトップクラスの広さを誇る。なかでも小倉南区合馬エリアは、毎年4月中旬から後半にかけて「合馬のたけのこ」が生産されることで有名だ。三村訓章さんが営む「合馬たけのこ体験園」には、青々とした竹がスラリと伸び、「竹の春」とも呼ばれる8~10月頃には、葉ずれの音が清々しく、一段と美しい竹林の風景が広がる。

石炭を運ぶカゴづくりのための竹林だった

北九州に広大な竹林があるのは、かつて製鉄所で栄え、“鉄の町”と呼ばれた北九州ならではの理由がある。もともとは「八幡製鉄所」(現在の日本製鉄九州製鉄所八幡地区)の石炭を運ぶ竹かごをつくるための孟宗竹(もうそうちく)の林だったのだ。一般的に竹かごには、マダケが多く使われる。しかし、この地域では同じ九州・鹿児島から孟宗竹の根を持ち帰り、竹林を拡げていった歴史があり、孟宗竹を使って竹かごが作られていた。

「春に生えたたけのこをたまたま食べた人がいて、それが大変おいしいということになったそうです」と三村さん。味よし、香りよし、食感よしといわれる孟宗竹。石炭産業が下火になってくると合馬ではカゴ用の竹から、食用のたけのこの収穫にシフトしていった。

こうして、たけのこは缶詰などの加工用として出荷されるようになるが、昭和50年代頃には価格が安い中国産の輸入品に押されて、価格が暴落してしまう。

そこで合馬地区では、輸入品との価格競争と切り離し、適正価格で合馬産のたけのこを流通させていくためのブランディングが進められていった。

上品な味わいで、京都や大阪の料亭から珍重

合馬たけのこが収穫できる地域の竹林は、赤褐色の粘土質土壌。この土壌は栄養分が少ない反面、気密性が高く、空気を含みにくい性質があるため、きめが細かく、やわらかな舌触りのたけのこになるのだという。さらに、土から顔を出す前に掘り出すことで、灰汁やえぐみの原因となるシュウ酸やチロシンの酸化を防ぎ、灰汁の少ない状態で収穫できる。

それならば、土から顔を出す前に掘り出せばいいじゃないかと思われてしまうかもしれないが、それこそ熟練の職人のなせる業。土の中のたけのこを探す作業だけでも相当な労力を要する。

こうして、生育に適した環境で育ったたけのこを職人の手によって丁寧に収穫するから、煮付けや炊き込みご飯、刺身で味わっても絶品だ。また、高速道路の発展により、日本中に穫れたてのたけのこを届けられるようになったことで、その美味しさがより一層知られるようになり、京都や大阪の料亭からも「合馬のたけのこ」が指名されるなど、ブランド食材として価値を高めていった。

きめ細かな赤土が「合馬のたけのこ」を育む

「合馬のたけのこ」を語るうえで欠かせないのが、合馬の赤土だ。福岡では八女市などもたけのこの産地として知られるが、そちらは黒土。合馬は、きめが細かく保水力の高い赤土のため、黒土と異なり地中に光を通さないので光合成して硬くなることを防ぎ、やわらいかままの食感を楽しめるのだ。

合馬ではさらに、たけのこの芽が出そうな場所に10〜20センチの赤土を盛る「客土(きゃくど)」を行うことで、やわらかさを追求。光がより遮断されるので、皮も白っぽく身も真っ白な「合馬のたけのこ」のなかでも最上級の「白子たけのこ」が獲れることもあり、高値で取引されている。「料亭では、茹で上がった皮つきの真っ白なたけのこが喜ばれているようです」と三村さん。

三村さんは、子どもの頃から親しんできた代々続く竹園を受け継ぎ、不動産会社を経営しながらたけのこの生産に携わっている。現在は妻や息子、娘などの家族、そしてスタッフとともこ農園を営んでいる。

1本ずつ丁寧に、手で確かめながら掘っていく

地中にあるたけのこを掘るのはとてもむずかしい。「一番上手に見つけるのはイノシシですね」と三村さんは笑顔を見せる。「足で探してたけのこの先端がひっかかる状態だと、収穫のタイミングとしてはもう遅いんです。収穫期は毎日山に通って、地面のわずかな膨らみを察知して掘るようにしています」。少しでも地上に出ると光合成がはじまって、皮の色が変わり身が固くなってしまうので、たけのこ掘りは一日一日が勝負だ。「たけのこは成長していくと動物をよせつけないようにアクが出てくるのですが、地中で早めに収穫してあげることでアクも少なくてすむんですよ」。

たけのこは1本ずつ形や地中での穂先の向きなどが異なることから収穫を機械化することが難しく、熟練のスタッフがたけのこを傷つけないように丁寧にかつ手早くクワで掘っていく。春の収穫時期は、1日4〜5時間ほど竹林の斜面で腰をまげながら収穫していくのは大変な作業だが、三村さんたちは、1日の作業で、平均250~300本を収穫する。初心者が同じように収穫をしようとすれば、たちまち土の中のたけのこを傷をつけてしまうか、傷がつかないように慎重に掘り出すのであれば、同じ時間で3~5本収穫できるのがやっとだという。

「合馬たけのこ体験園」は、三村さんの代になってから本格的に全国への販売をスタート。愛情をたっぷり育てたたけのこを収穫後すぐに発送するのが三村さんのこだわりだ。「朝掘って昼には袋詰めしてすぐに発送しています。関西方面でも翌日の午前中には到着するんですよ。獲れての美味しさをすぐに味わってもらいたくて」と三村さん。

肥料や伐採など手をかけて豊かな土壌をつくる

美味しいたけのこを育てるためには、一年を通して竹林の手入れが必要となる。竹は地下茎がはりめぐり、竹同士が地中でつながっているが、地下茎が古くなってしまうと、土がかたくなってしまう。その為、毎年10月頃から300〜400本の竹を伐採して間引いている。そうすると土がやわらかくなり、その中でスッと生えてくるたけのこもやはりやわらかい食感になる。「踏んだらしずむような、ふかふかの地面が理想です」と三村さんは竹林を見渡しながら微笑む。竹の地下茎が子ども(たけのこ)を生やしやすいよう、新しい芽が生えてくる頃を見計らって成長を促す窒素を含んだ醤油の搾りかすなどの肥料をまくことも大切な仕事だ。

未来につづく、たけのこづくり

近年、食の安全がとりざたされてたけのこも国産が注目され、安心・安全で味わいも良い「合馬のたけのこ」の人気は高まるばかりだ。しかし、栽培面積や生育、収穫方法のこだわりから、国産のたけのこは全国でも10%程度しか流通しておらず、大半は中国などからの輸入品だ。これに危機感を感じた三村さんは、高齢化や後継者不足に悩む農園のために、山の手入れを代理で行う「たけのこ守り隊」を結成し、「合馬のたけのこ」ブランドを支える活動も行なっている。また毎年3月下旬から4月中旬まで、週末に開催されるたけのこ掘り体験も毎回大盛況だ。竹林の美しさや、愛情をこめて育てる生産者の思い、収穫したてのみずみずしく澄んだ味わいなど、「合馬のたけのこ」のあふれる魅力について未来をになう子どもたちにも伝えている。

ACCESS

合馬たけのこ体験園
福岡県北九州市小倉南区辻三452
TEL 093-452-0240
URL http://www.ouma-takenoko.jp
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