お店の顔となる看板「看板彫刻師」坂井保之さん/東京都台東区

お店の顔となる看板「看板彫刻師」坂井保之さん/東京都台東区

店の軒先にかかる木の看板

少し想像してみてください。江戸時代、街の一番大きな目抜き通り。酒屋さんがあり、醤油屋さんがあり、かんざし屋さんがあり。店先からふと目をあげると、「○○屋」という木の看板が掲げられている。大きな店になればもちろん看板もどっしりとより立派に輝いている。

看板には日本産の木材を

今回は、その看板を作る職人さん、看板彫刻師の坂井保之さんにお話を伺いに行った。
看板にする木材はいろいろな種類を使う。檜、欅、桂材、注文があれば他の木材も。坂井さんによれば、そのなかで最も適しているのが、檜か欅。その理由は日本の気候に合っているからだという。さらに日本産の木が一番いいそうだ。

「檜は柔らかいけど、もちがすごくいい。法隆寺は檜で作られていますね。ゆっくりと強さが続く」
ただし、檜の弱点は幅。「幅広もんがないんですよ。いまでは細い木ばかり。だから材料を探すのが大変。アフリカ材も有りますが、これは固くて小刀がボロボロになる。小さいヒビが入ってしまったりね。だから日本の木材が一番なんですが、少なくなってしまった」と坂井さんは話をしてくれた。

看板刀で彫り出す木の看板

坂井さんは3メートルという大きなものから手のひらに収まるような小さなものまで、文字や表現に合わせていろいろな技法を駆使して、何でも看板刀という小刀で彫り出してしまう。現在は看板の文字には科学塗料を使用して保存性をよくしているために、漆塗りの看板というのはほとんどなくなったが、昔は専門の塗師たちもいたそうだ。
「かつてはすべて分業。字を書く専門の人がいて、彫師がいて、漆を塗る塗師がいた。」この職人も時代とともに少なくなってしまったが、木の看板を掲げるお店も少なくなってしまった。坂井さんは寺社の扁額や相撲部屋の看板、そして日本橋三越本店の看板などというように、様々な看板をこれまでに作ってきたが、看板というものに対する日本人の考え方が変わってきたと話す。

看板を掲げることの重み

「昔は看板に大きな意味があった。看板には一種の矜持みたいなものがあった。でも今は会社が大きくなって、大きなビルに移るみたいなことがあったら、看板も変えてしまう。だから、私は残したらどうかと言うんです。僕らは、生きているものをビルのどこかにおいてもらいたいという思いがあるんです」

昔は修行をして一人前になったら、看板を持つということが一種のステータス。「看板を掲げる」とか「看板を背負う」などという言い回しが現在でも残っているが、それだけ看板というものには大きな意味があったのだ。

坂井さんの「生きているもの」という表現が印象に残った。看板は作ったらそこでおしまいではない。お店の成長とともに、看板も成長する。だから坂井さんにとって看板はお店とともに「生きているもの」なのだ。3代続く福善堂の彫刻師坂井さんの言葉には看板とともに、生きる人たちの姿が映りこんでいた。

ACCESS

福善堂坂井看板店
東京都台東区松が谷3-4-1
URL http://www.interq.or.jp/tokyo/fukuzen/