醸造文化を支える科学「東京農業大学 醸造学科 穂坂賢」

醸造文化を支える科学
「東京農業大学 醸造学科 穂坂賢」

醸造を科学する

中田がこれから向かう場所は大学。なぜ中田が大学に向かうかというと、そこにお酒があるから。
大学にお酒というとあまりピンとこないが、ここ東京農業大学には”醸造学科”があるのだ。日本酒から酢、醤油、味噌などはすべて醸造という技術から生まれる。その醸造を研究する学科である。今回、東京農業大学 醸造学科の穂坂賢教授のもとを訪ねた。
穂坂教授に案内され、麹室のある研究室におじゃまする。中に入ると、中田とスタッフが目を合わせる。どこかで嗅いだことのあるにおい。中田が頷きながら「蔵のにおいだよね、これ」と言った。これまで幾度となく訪ねた仕込み蔵のにおいがするのだ。さすが醸造学科の研究室だと思わざるをえない。

機械化と手作業と

醸造を研究し、科学的な視点から分析することで、新しい成分や製法を導き出すことに繋がる。研究の大きな目的のひとつだ。そしてもうひとつ大切なことは、醸造が進む過程の基礎を徹底して学ぶことだという。基本的な知識は、安定した製造技術には欠かすことができないのだ。
「醸造は化学変化だから、その基礎をきちんと学ばなくてはいけません」と穂坂教授。一般的に、酒、醸造というイメージからは化学反応式は出てこないかもしれないが、麹菌と米や水の成分の変化を知るために、ここでは分子式が飛び交う。
科学としてシステマチックに計算ができるなら、機械を中心に日本酒を造ることができるのではないかという考えもあるだろう。そこで、中田が「機械と手作業についてはどうお考えですか?」と問うと、穂坂教授は「人が見なければ感じられない部分は非常に多い。だから何でもかんでも機械化するというのがいいことでないんです」と言う。重労働の部分は機械化することで効率が上がる。けれども、麹や発酵の様子は「生き物」だから人が見なくては、人が感じなくてはいけない部分が絶対にあるというのだ。

食全体でおもしろいことをやりたい

現在は食に対する興味が高まっているためか、醸造学科に応募する人が増えているという。研究室を見学したときは学生さんが「花酵母」を分離させる実験を行っていた。時に麹を仕込む実習のときには寝袋を用意して、泊まりでの実習になるのだそうだ。

また一般向けの公開講座も、大学内で行っている。「大学での研究というとどうしても最新のものになってしまうんですね。だからこういう講座で基礎が伝わればいいと思う。例えば同じ酒蔵の同じ銘柄のお酒でも、年が違い、お米が違えば味は微妙に変わってくるんですよ」と穂坂教授は話してくれた。

それにくわえて地域との交流も活発だ。花酵母もそのひとつだが、地域の作物から酵母を引き出す研究に関する依頼も多く、積極的に関わっている。「地域振興も含めて、食全体でおもしろいことができたいいなと思っています」と言う。
研究室には酒造会社が造ったお酒を預かっていた。「100年間置いておこうと思っているんです」と話してくれた。

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